独自カラーのフォーマットで、一般的なスーパーとすみ分ける 神戸物産 沼田博和社長

2025.03.17

タピオカブームで若年層にまで客層拡大、その後はずっと好調

 「業務スーパー」を日本全国に1084店(2024年10月末現在)の他、惣菜店やレストランをフランチャイズチェーン(FC)展開する神戸物産。直近の24年10月期の決算は、売上高が前期比10%増の5078億8300万円、営業利益が同11.8%増の343億5000万円と絶好調だった。同期の売上高営業利益率は前期比0.1%ポイント改善の6.8%。

 実際、ここのところ、メディアなどで「業務スーパー」の名前を見る機会は確実に増えているように思える。同社の特徴ある商品開発の考え方、さらにはあえてFC展開による店舗網の拡大にこだわる理由などについて、同社の沼田博和(ぬまた・ひろかず)社長に聞いた。

 現在、スーパーマーケット(SM)は、値上げの影響もあって業界全体でおおむね売上好調が続いている。一方で、それは主に1品単価の上昇からもたらされたものであり、買上点数の減少、客数の減少に見舞われている企業も見られる。

 「業務スーパー」の店舗はどのような状況なのだろうか。

 「既存店売上自体は引き続き、好調に推移しています。ただ、いわゆる節約志向の高まりのようなものが見られます。客単価は過去1年半以上、ずっとプラス成長を続けているんですけれども、やはり、徐々にインフレも一時期よりは収まりつつある。客数も一旦は新規の顧客を取り込んだのですが、それが一時期よりは収まるといったことで、前期(24年10月期)の業績でも上期、下期で見ると、下期の方が若干減速しているというのが足元の状況です。

 そこから考えますと、今期においては、インフレ率が若干収まっている中で、客数はほぼ横ばいという予算を組んでいますので、ある程度落ち着いた売上の推移になるのではないかという見通しを持っています」

 好調ではあるものの、その勢いが弱まっている状況下、今後の見通しは保守的なスタンスに立っているようだ。一方で、新型コロナウイルスの影響で外出の頻度が抑制されたことで、20年、21年当時、必需品主力の業態として大きな支持を得たのもまた、SMであった。

 「そうですね。ただ、業務スーパーの場合、タピオカブームで(コロナ前の)2019年に一気に(売上が)増え、その後はずっと伸び続けています(業務スーパーでは冷凍タピオカを販売)。タピオカによって若年層が増えたことが1つ引き金になって顧客層が広がりました。

 20年は、『緊急事態宣言』前後の3月、4月、5月辺りはかなり売上が増えました」

 前述のように新型コロナウイルスの影響は、特にSMなど必需品を扱う業態の売上を大きく押し上げたが、同時にコロナの影響が弱くなるにつれてその反動が現れるようになった。業務スーパーはどうだったのか。

 「(その後の反動のようなものはなく)ずっと成長を続けています。というのも、19年以降、かなりメディアへの露出が増えています。いろいろなメディアで露出するたびに新しい顧客を獲得している状況です。

 19年以降、過去5年以上はかなり順調に新規顧客を取り込みながら成長している状況ですね。もともと意識的にできるだけ積極的に(取材を)受けようということで、方針を決めています。いまは取材対応にかかる時間の関係もあって、どちらかというと抑えていますが、対応できるものにはしっかり対応しています」

 前期は大幅の増収増益。既存店も継続的に伸び、さらにメディアにも注目される中にあっても、今後は客数横ばい、売上も落ち着くと見ている背景には何があるのか。

 「予算自体はかなり保守的に見積もっています。正確には分からないところもありますが、例えば主要な食材である米などはかなり価格が高騰していますので、相応のインパクトがありますし、輸入品もやはりいまの円安で、価格が高止まりの状況にあります。

 ただ、輸入品の取り扱い比率は売上高全体のうち22%~23%というところで、かなり取り扱いの品目数も増えているのですが、その中でも競合店と価格競争をしているものは一部に限られます。それ以外のものは、その『商品そのものの価値に対しての価格』ということで、絶対的な評価をしていただいていますので、意外に値上げ後も(売上が)落ちていない商品が多いことも確かです。

 もちろん、ものによります。同じように(売価を)上げていっていますが、やはり売れなくなるものはぴたっと売れ行きが止まりますし、売れ続けるものは値上げしても出荷増という形になっています。やはり、お客様は価格をよく見られているなという印象ですね」

 業務スーパーの強さは、やはり独自性のある商品開発といえる。開発においてはどのような方針を持っているのか。

 「基本的に輸入品を担当する海外の商品開発においては、『この国で開発』『このカテゴリーを開発』と具体的に決めて取り組んでいるわけではありません。どちらかというと開発者の意向に合わせた形で、それぞれの開発者の特徴を生かしながら取り組んでいます。

 例えば外国人のバイヤーもたくさんいますが、その場合、やはり出身国周辺(の情報やつながり)を強みとしていますので、その国での開発に注力しながら、周辺国もやるというような形です」

 商品開発においては、担当者がその国の文化など事情をよく分かっている方が良いという意図があるのだろう。

 「そうですね。その方が良いと思っています。その国出身の方は、その食材を小さいときから日常的に食べていますので、良いもの、そうではないものを幅広く知っているわけです。その中で、日本人に受け入れられる品質と価格について、結構、厳密に基準を持つことができます。

 なので、社内でのプレゼン(テーション)のときでも、例えば、『この商品は安いですが、私は好きではないです』とはっきり言ったりします」

 現在、海外の商品開発はどの程度の広がりを持つに至っているのか。

 「いま海外での商品開発は約50の国と地域に上ります。中国からの商品が多いですね。初期のころから取引をしているため、一番多くなっていますが、やはり中国だけに頼るリスクはありますので、私たちも中国だけに頼らずに周辺国にも広げていこうと10年以上、取り組んでいます」

 ただ、最終的に中国の価格と品質のバランスを見ていったときに中国の強さが際立っている印象です。国が食品の安全に対してかなり注力して取り組んでいまして、同じアジア圏で見ても、中国とその他アジア諸国のメーカーだと力量の差が平均レベルではかなりあると思います」

商品開発の強みを武器に、若年層にも客層を拡大しながら成長を続ける同社に注目する小売業関係者は多い

好調の業務スーパーが主力ながら、今後は中食、外食にも注力していく

 現在、神戸物産の事業はどのようなラインアップになっているのだろうか。

 「細かいものもいっぱいありますが、主には4つですね。『業務スーパー』『神戸クック・ワールドビュッフェ』(外食)『プレミアムカルビ』(外食)『馳走菜(ちそうな)』(中食)。

 馳走菜は約130店舗ありますが、ほとんどが業務スーパーの中に入る形になっています。プレミアムカルビは、いまは全部直営店ですが、目標としてはFC化を目指します。やはりFC化をしていかないと、加速度的に大きくはならないので」

 主力の業務スーパーは、商品構成としてはグロサリー、日配がメインで、生鮮食品などは各フランチャイジーが担う形となっている。

 「生鮮は基本的には各フランチャイジーが自分たちで運営するか、テナントを入れるかです。ただ、鶏肉は群馬と岡山に自前の養鶏場がありますので、そこから供給しているものが一部あります」

 精肉では、外食のプレミアムカルビで取り扱う肉を業務スーパーで取り扱うといったことはしないのだろうか。

 「単価が違います。プレミアムカルビはちょうど真ん中ぐらいの価格帯だと思います。和牛など(の高単価のライン)ではなく、輸入牛の中でグレードの高いものを扱っているので、全部をカバーできないというところもありますし、ちょっと流通の経路も違います」

 そもそも、なぜ外食も展開しているのか。

 「まずは基本として、私たちが目指している姿が、『食品スーパーの企業で終わらない』ということを前提としていることがあります。食品スーパーの小売業だけではなく、中食、外食も含めた『食のシーン』を総合的に手がけようと考えています。

 もう1つ。私たちは食品小売業というよりは、どちらかというと製造や卸の側面が強いということがあります。いかに自分たちがコントロールできる出口を増やしていくかということが、この製造と卸の利益の改善につながります。その意味では、リスク分散と、出口戦略を複数持つことによる利益増大を図っていくということです」

 それでは、調達した食材を双方で活用することが少ないのはなぜか。

 「外食とスーパーでは『発想の仕方』が違うところがあります。どちらかというと、外食はメニューから材料を集めるのではなくて、自分たちの強みのある食材をいかにメニューに落とし込むかがノウハウになっています。つまり、『シーズ発信』です。

 一方のスーパーは、どちらかというと惣菜の売場で販売したいメニューがあるとすると、いろいろなメーカーと交渉しながらそのための食材を調達するということになりますので、材料発信ではなく、『ニーズ発信』の傾向にあります。

 私たちの場合、両方あるのですが、どちらかというと(小売りでも外食でも)『シーズ発信』が割と多いです」

 外食ではない、小売業としての「シーズ発信」の考え方はおもしろい。

 「私たちの場合は効率を重視していますので、例えば、食材1つ取っても特定のメニューにしか使わない食材はあまりないんです。その食材を、いかに汎用性を持たせて、いろいろなメニューに活用しながら在庫回転率を上げていくかが、メニュー開発者の技量の1つになっています」

 目下、注力するのは小売業の方なのか。

 「いまは業務スーパー自体が、かなりしっかりと軌道に乗っていますので、自分自身もそこに割いている時間が圧倒的に多いですが、特に注意して見ないといけないのが、中食、外食かなという印象です。中食、外食をしっかり育てていかないといけないと思っています。

 いま、神戸物産の売上構成では全体の90%台後半が業務スーパーに偏っていますので、スーパー、外食、中食のバランスをいかに調節していくかですね」

 それでは、業務スーパーの標準規模や標準アイテム数はどのようなものなのか。

 「基本は売場が150坪前後で考えています。展開アイテムは2500~3000程度です。登録アイテムは最大で7000ほどありますが、全て導入している店舗はありません。ただ、プライベートブランド(PB)に限定すると直営店の横浜いずみ店(横浜市泉区)は基本的にひととおり扱う方針です。ちなみに、いまのPB比率は約34%です」

 オリジナル商品の比率が高い印象があるが、実際のPB比率はそこまで高くないことが分かる。

 「この『PB』の定義は『国内のグループ工場の商品』と『直輸入商品』の2つとなります。国内のメーカーに業務スーパー用に作ってもらうものはPBとせず、いわゆるOEM商品としてナショナルブランドカウントになっています。そのため、実際にお客様が抱いている印象とこの数字(34%)ではかなりギャップがあると思います。以前は、OEM商品のパッケージに業務スーパーのロゴを入れていましたが、いまは抜いています。

 最近は、大手メーカーの主要ブランド自体を業務スーパー用に開発していくことも一部やっています。例えば、23年にはとあるメーカーと1ℓのアイスクリームを共同開発しました。『業務スーパーで売っているあの1ℓの商品を取り扱いたい』と他社が殺到したみたいです(笑い)。1年間は『業務スーパー専用』ということでお願いしまして、その後は他社に並んだりしています。

 こうした取り組みは、他社でも実施していますが、うちでも十分できるだろうということで取り組みました」

 「業務スーパー」という名称自体、「卸」を想起させるもので、基本的には卸を標ぼうしているということになるだろう。

 生鮮食品は多くをフランチャイジーが担う形であるが、中食の惣菜については業務スーパーと併設を前提とした形で手掛けている。需要の高まりを見越してのことなのだろうか。

 「馳走菜ブランドのFC展開を加速したのは割と最近ですが、惣菜に参入してからは15年近く経ちます。基本的に(夫婦)共働きが増えていく前提に立ってやっていますので、惣菜事業は外せないものです。

 私たちの場合、新規事業を手がけても、うまくいかないと判断したら1、2年で止めてしまいますが、惣菜はうまくいかず、ひどい時期があったにもかかわらず、ずっと粘り腰でやっていたのは、基本的に必要な事業だからです」

 フランチャイジーへの供給の仕方はどのような形になるのか。

 「原料とメニューを提供しています。そのとおりに作れば、売場ができるというものですね。約130店で、ほとんどの店舗が業務スーパーと併設です。早期に200~300店に増やしていきたいです。

 惣菜の効果は大きく、初期の頃は既存店に惣菜を入れることをよくやっていたのですが、明らかに客数が増えます」

 一方で、惣菜は人手がかかる商品分野でもある。人手不足が叫ばれる昨今、惣菜事業に踏み込むかはフランチャイジー側の判断になる。ましてやもともと物販のFCということで、フランチャイジーとしてもローコストオペレーション志向が強いと思われる。

 「2極化しています。惣菜を好んでやるオーナーとやらないオーナーに分かれていまして、やらないオーナーが懸念しているのは、まさに人手の確保です。

 惣菜事業としては、一般的なスーパーの惣菜よりかなり人手がかからないようにオペレーションを組んでいるのですが、それでも業務スーパーよりは人の効率が悪いので、人手の確保を考えると『業務スーパーだけに集中したい』というオーナーもいれば、『惣菜をやることによって相乗効果で店全体の集客力が増す』と高評価していただいているオーナーもいます」

 「人手がかからない工夫」はどのようなものか。

 「業務スーパーの考え方に近いのですが、基本的な考え方は、『お客様の全てのニーズに対しては、対応できない』という前提です。初めからメニュー自体も絞り込み、効率よくできる仕事しかしないようにしています。

 いわゆるニーズ性の高いA級商品を、いかに効率よく作るかに絞っています。調理の設備、器具なども基本、FC本部指定のものがあります。

 ただ、メニューは絞っていますが、主力がしっかりと価格と品質的にバランスが取れているので、(アイテムは少なくても)むしろ、お客様からも好評を得ています。売場面積自体が10坪ぐらいしかないこともあります」

 馳走菜では約100種類の商品を用意しているが、店舗の大きさやフランチャイジーの意向によっても展開商品は変わってくることから、多くの店舗が100アイテム以下となる。昨今、SMでは惣菜を強化していて、他社の大型店では200~300アイテムほど並ぶことを考えると、やはり絞り込んだ展開だということが分かる。

 前述のとおり、生鮮食品は基本的にはフランチャイジーが手がける運用ではあるが、惣菜事業で追求している人手のかからないオペレーションを生鮮にも応用できるのではないか。

 「実は、当社が手掛けるチルドの精肉について、一部店舗でテスト的に販売を始めています。将来、新規で展開ができるかどうかをテストしています。生鮮はやはりどうしても各地域の市場に調達しに行くということで、結構『人』に依存するところは大きいと思うのですが、精肉は材料を卸から調達しますので、(青果、鮮魚に比べて)まだ参入しやすいという感じがします。

 いまはいろいろテストしていますし、フランチャイジーに協力してもらいながら販売もしていますが、『売る側』も慣れていない部分があります。どう価格を見切っていくかといった部分ですね」

 FCで生鮮を提供するためには見切り販売のオペレーションについても、しっかりと構築する必要がある。ただ、調達、商品化、売場オペレーションの面で精肉は、生鮮の中では最も取り組みやすい分野であることは確かだろう。今後のラインロビングに期待がかかる。

PB比率は34%。独自性のある商品はFC展開においても強みを発揮している。需要の高まる惣菜分野も人手がかからない形で提供することで展開が拡大している

業務スーパーは地域の「上位2店舗」に入ることが重要

 業務スーパーは国内で1000店を超えた。長期目標では1500店を掲げるが、マーケット飽和のような状況は考えられないのか。

 「まだまだいけると思います。1500店は最低目標として置いています。私たちはマーケットシェアで見ればそれほど高くないので、(シェアで見ているわけではなく)既存店とのカニバリゼーションを見ながら出店しています。既存店の売上をベースに、人口と見比べながら、各エリアにどれくらい出店できるかを算出しています。

 人口で見ると、基本的に5万人に1店舗という考え方です。私たちの場合、どちらかというと品数を絞ってやっているスーパーなので、ニーズを総取りするという考え方がそもそもないんです。

 一般的にスーパーは、どちらかというと売上拡大のためにどんどん大型化していって、取り扱いカテゴリーであったり商品数であったりを増やしていく傾向にあると思いますが、私たちは逆を行っています」

 人口減少局面に入った日本では、特に地方におけるSMは、地域における需要をいかに総取りできるかという観点で、取扱商品の総合化を進め「地域一番店」を目指すべきであるという考え方が出てきている。

 「私たちの場合、地域の中でいわゆる『地域一番店を目指す』というよりは、『上位2店舗に入る』という考え方です。一般的なスーパーと業務スーパーを消費者が使い分けていただけるぐらい特徴を出していこうという考え方を持っています」

 極端な言い方をすれば、「業務スーパーだけでは食生活が完結しない」イメージということか。

 「そうですね。例えば、業務スーパーの多くの店舗では、とあるメーカーのナンバーワンブランドのしょうゆを扱っていないため、それが欲しいとなると、もちろん消費者の方には他のスーパーで購入していただくということになります」

 業務スーパーの場合、生鮮は主にフランチャイジーが手がけることで、多くの店が「ひととおり食材がそろう」構成になっている。それでもなお、すみ分けを前提としているのは興味深い。

 ドイツ発祥のハードディスカウントストアと呼ばれるアルディやリドルは、商品構成上はSMと同様だが、低価格のベーシックに絞り込んでいるため、SMと並んで出店するなど、補完関係になっているものも多い。業務スーパーの考え方もこれに近いものと捉えることができる。

 「もちろん、競合はするのですが、『競合しながら共存する』という考え方を持っています。ただ、総合スーパーや大型SCのように駐車場に車を停めて、建物内に入って、いろいろな売場を回ってといった時間を消費するようなSCは想定していません。時間の節約というか、いかに効率良く生活をするかという点を重視しています」

 1500店は最低目標ということだが、それ以上の出店余地はあるのだろうか。

 「今後次第です。以前、1500店と決めたときよりも既存店自体が成長はしていますが、一方で、いわゆる小型店舗の開発は必要です。例えば(家賃の高い)東京の(JR)山手線の駅付近やその内側で考えると、お店がまだそんなに多くない状態なので、ここに展開できれば200店舗近く出店することができると思っています」

 どの程度までの小型化が可能とみているのか。

 「既存店でも小型店はあります。ただ、家賃とのバランスもありますので、先ほどのエリア(山手線の周辺、内側)になると家賃がそもそも全然違います。坪(当たり月間)3万円、5万円といった話になってきますと、根本から考え方を変えないといけません。

 中期的にはそういった立地にも出店したいと思っていますので、実験的に直営で出して、フォーマットを吟味しながら、ある程度投資回収の形が見えてきたらフランチャイジーに案内していくという流れで考えています」

 出店についてはあくまでFCがメイン。直営店はわずか4店にとどまる。FCにはどのようなメリットがあるのだろうか。

 「一番のメリットは、本部としての私たちの資源、つまり人、物、金の資源を店舗運営以外に集中投下できるところです。ある意味、店舗運営に関しての投資だったり、人の管理等は全部フランチャイジーにお願いしていますので、私たちはどちらかというと商品作りだったり、サプライチェーンの強化だったりというところに注力できるというところが、一般的なSMとの大きな違いかなと。

 4店ある直営店の目的は、1つは実験店という位置づけ。もう1つは人財育成です。私たちの場合、スーパーバイザーが各店の指導をしていくわけですが、現場経験なく指導するケースが過去にはあり、むしろそれが普通でした。

 そうではなくて、直営店できちんと店長経験を積み、現場の人が実際、どういうことで困っているのかといったことを体験しながら指導に落とし込もうということです。そのために直営店を設けています。スーパーバイザーは1人当たりおおむね25~30店ぐらいを担当しています」

 神戸物産では日本での出店について、各フランチャイジーが自由に出店できる「直轄エリア」と、それとは異なる運用となる「地方エリア」に都道府県単位で分けている。

 「『地方エリア』というのは、県単位で出店できる権利をフランチャイジーにお渡しするものです。例えば、岡山県は地方エリアですが、岡山県内は岡山県での権利を持っているオーナーしか出店できません。それ以外の企業が入ろうと思うと、その会社の下に入る形(その会社を通じて出店する)になります。

 このようにしているのは物流体制の問題からです。いま物流センターが神戸と横浜にありまして、ここからの供給範囲を基準にしています。それで、(店舗が)あまり遠いと物流コストが見合わないことになり、同じ値段で管理しようと思ったときに物流コスト分、利益を棄損してしまうことになります。つまり、いまの地方エリアは物流費が余分にかかっている分を価格にオンして販売してもらうようにしています。

 ただ実際、厳密にいうと、北海道や九州はもともと直轄エリアではなかった地域ですが、いまは直轄エリアにしています。これについては、物流費の負担が大きいがゆえに出店に手を挙げていただける企業がなかったり、いったん手を挙げたものの、うまくいかずに止めたりということがあったのが、北海道、九州ということです。そこで、ここについては計画的に物流費のところをどうクリアするかを私たちが事前に考えた上で直轄化したということになります。

 北海道、九州であれば、全ての商品ではないですが、例えば九州では関西と同じ値段で販売できるような体制作りをしています」

 やはり、神戸物産にとっては、商品の開発、製造、およびその供給があくまで事業ドメインであることが分かる

 「いま国内自社グループ工場は全国で14社26工場体制(2024年10月末時点)になっていまして、今後さらに増やしていく方針になっています。国内自社グループ工場化は、特定の分野を狙って探しているわけではなく、常に広く探しています」

 商品力の強みを生かせば、海外展開にも可能性が広がる。

 「一部、海外に出ています。『業務スーパー』の看板で出ているのが、香港、ベトナム、マレーシアですが、どちらかというとまだ実験段階ですので、まだフランチャイズ契約はしていません。現地のパートナー企業に対して、商品の売買契約とライセンス契約をしている形です。

 どういったフォーマットが海外だと適正かというところを、パートナー企業と探りながらやっていきます。『海外』と言ってもひとくくりにできません。例えば、アジア圏ではこういう形が良いということがあったとしても、アジア圏の中でも香港とベトナムは全く違うといったように、それぞれの環境ごとのフォーマットを探りながらやっている状態ですね。手応えはそれなりにあります」

PBの開発、製造拠点となる国内自社グループ工場は全国で14社26工場体制。今後も充実を図っていく意向だ

SMも「自分たちのカラー」を出すべき時代

 企業によってはPB商品を値下げする動きもみられる。背景には節約意識の高まりがあると考えられる。商品を供給する企業として、現在の消費環境をどう見ているのか。

 「節約意識はかなり高いと思います。私たちがこの1年半ぐらいかなり業績を伸ばしたのも、それが1つの理由だと思っていますし、売れている商品自体を見ていても、やはり、その傾向があるなという印象ですね。

 例えば、同じカテゴリーの中にもいろいろな価格帯の商品がありますが、その中でも安いものの方が、平均的に売れ行きが良いということがあります。おそらく低価格帯に少しシフトしているということです」

 それを受けて、低価格をさらに追求していくのか。

 「ずっと低価格ニーズが続くわけではないと考えていますので、そこはあまり考えずにやっています。基本的には賃金は今後、右肩上がりになっていくと思いますし、特に業界的に労働需給がひっ迫しています。賃金を上げないと人手確保自体が難しい状況です(賃金が上がった分、消費にも回るはず)。

 いまは、どちらかというと実質的に賃金が下がっている状態ですので、一巡するまでは低価格帯ニーズが高い傾向が続くだろうとは思っていますが(将来的には消費は上向くと考えている)。

 特に食品に関しては、他の産業と違うのは『必ず食べないといけない』ものなので、消費を一時期抑えることができても、それをずっと続けることはできません。

 昔と比べると商品の価格帯の幅がかなり広がってきています。昔から『ちょっと良いもの』を扱いたいということでチャレンジをしてきましたが、以前はあまり定着することはありませんでした。

 それが19年以降、客層が広がっていることもあって、過去5年ほどは定着するようになっていて、商品の取り扱いの幅自体がかなり広くなっています。

 例えば、参入が一番遅かった九州では、業務スーパーのイメージは『良いものを扱っている』『良いものが安い』という風に言われています。これは自分たちが目指しているイメージに一番近いと思っています」

 そう考えると、「業務スーパー」という名前を変えることもあり得るのだろうか。

 「変えないです(笑い)。これだけブランドが浸透していますから」

 一方で、原料高が顕著になっている状況下、「ちょっと良いもの」にシフトしたとしても、どこまでも価格を上げてよいというわけではないだろう。

 「そこは難しいと思います。やはり特定の原料が上がってきますと、それに対して単純な値上げというのはなかなか難しいところがあります。そうなったときに材料を切り替えたり、いろいろレシピ変更というのが出てきたりしますので、そこは企業の工夫次第かなと思います」

 ここで難しいのは、売価を維持しようとして原料を変えたことで品質が下がり、固定客の離脱を招くことも十分考えられるということだ。特にインフレ下では、価格を維持するために原料を変えるか、売価をある程度上げるかという難しい選択が表面化する。

 「そこは調整しながらやっていますが、失敗したものもあります。自分たちとしては問題ないと思って(原料を変えて)出したのですが、実際はずっとリピートしていただいているお客様からしたら『前の方が良かった』ということで、販売量が落ちてしまったものがありました。それで、すぐに元の原料に戻したということも一部ありました。

 やはり商品開発力があって、うまく品質を落とさずにコントロールできて、それが原価のコントロールにつながっている企業はしっかり利益が確保できていますし、それができない企業は、単純に値上げして数量を落とすのか、それとも単純に利益を食ってしまっているのかというようなことにはなると思います」

 これまで見てきたように、業務スーパーは一般的なSMとは一線を画す存在といえる。沼田社長にはいまのSM業界はどう映るのか。

 「業績を開示されている大手企業の業績を見ていると、既存店の状況は非常に良いと思います。ただ、あれだけ存在感のある企業がみんな良いということは、裏を返せば開示していない中小企業などには、おそらくマイナスのところもあると思いますので、その辺りの『差』が、このインフレ下でかなり出てきているのではないかと思います。要は交渉力の差が明確に出ているのではないかなと。

 インフレが起きていますので、基本的に1品単価の上昇がある分だけ、基本的にはマーケット全体のサイズは大きくなっていると思いますが、スーパーが(シェアを)取れるところはあまり考えられず、むしろ他から侵食されている部分が多いと思います。外食も調子が良いので、外食から取っているわけでもない。そう考えると、スーパーの中での勝ち負けではないかなと思うわけです。

 いまスーパー業界はちょうど過渡期だと思っています。結構、日本のスーパーの方は海外、アメリカ、ヨーロッパのスーパーの視察に熱心に行かれますが、結局、その中の一部を導入して、それで終わってしまうケースが多いのではないかと思っています。結果として、ふたを開けてみると、どこのスーパーもやっていることはそんなに変わらないというのが業界の状況だったといえると思います。

 一方で最近の傾向として、自分たちのカラーをしっかり出していこうという企業方針の会社が増えていますので、非常におもしろくなってきているのではないかと思っています。いろいろなスーパーの特徴が、消費者にも伝わるような形で発信されてきています。

 そういう風になれば、業務スーパーと普通のスーパーを使い分けてもらうみたいな形で、いろいろなスーパーを使い分けられるような状態にすることで、一消費者目線でいえば、いろいろな魅力をいろいろなスーパーで発掘できる。それにみんなで取り組むべきじゃないかなと思います。

 いままではスーパーはどちらかというと、アメリカだろうが日本だろうが、はやっているスーパーに行って取り入れたい仕組みをそのまま持ってくるといった業界だったと思います。非常に熱心なのは分かるんですが、自分たちのカラーを出しにくい業界だったのかなと。いまは消費者のニーズが多様化している中で、その意識もだいぶ変わってきていると思います」

 その意味では、現在の業務スーパーは、まさに独自のカラーを持ったフォーマットであるといえるのではないか。

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