「ロフトだからこそ、可能性が広がる」 ロフト 安藤公基社長
2025.10.08

大型店の時代から300坪の標準店が主力の時代に
黄色のモチーフで統一された売場にさまざまな雑貨が並ぶ専門店「ロフト」。ロフトはいまから40年近く前の1987年、西武百貨店渋谷店の別館に設けられた「ロフト館(現・渋谷ロフト」として誕生した。当時、新しい生活雑貨の専門大店を構築すべくプロジェクトがスタート、既存の百貨店の趣味雑貨売場を超えたコンセプトを模索したメンバーの中に、現在、社長としてロフトを率いる安藤公基(あんどう・こうき)氏もいた。
「どんなコンセプトにしようかと朝から晩まで他店を偵察し途方に暮れ」(同氏)ながらも、「機能用途一辺倒の売場ではない、トレンド発信を意識した編集型の売場」「目的購買型ではなく時間消費型の売場」(同)といった時代を先取りする考え方にたどり着き、結果として現在にもつながる「時(トキ)の器」というコンセプトが生まれた。
もともと親会社であった西武百貨店(現・そごう・西武)のセブン&アイグループ入りなどを経て、現在では同グループのスーパーストア事業を束ねるヨーク・ホールディングスの傘下企業となっている。この間、大きな環境変化を経ながらも、創業以来、変わらないコンセプトで成長を続ける同社の歴史と現在地を安藤社長に聞いた。
渋谷ロフトなど大型店のイメージが強いロフトであるが、大型店はあくまで渋谷や銀座など大都市のフラッグシップ店としての役割に特化。その事業のメインは小型店が主力となっている。
「いま一番多いのは300坪前後の標準店で、国内182店舗(2025年7月末)あります。やはり、効率がいいんですよね。
もともと西武百貨店からスピンアウトしてきたので、みんな百貨店育ちですから『単館の大型店』が当たり前だと思っている面がありましたが、やはり大型店は効率が良くない。渋谷ロフト(東京・渋谷)にしても、銀座ロフト(東京・中央)にしても、契約面積と営業面積の差が大きすぎるわけです。
それが(商業施設などの)テナントで入ると、85%ぐらいの有効率です。200坪の契約面積で、170坪の営業面積みたいな形なので、家賃効率が全然違ってきます。また、それに比べれば大したことではないですが、例えば6層のお店だと6カ所にレジを置かなければいけないのですが、それが標準店だと当然、1カ所で済む。やはり、いろいろ大型店はコストがかかります。
1987年に1号店が渋谷にオープンし、その後、90年に梅田と池袋がオープンし、その3館体制で96年に分社化するまでやっていたんですが、そのころ、梅田ロフトは阪神・淡路大震災(95年1月17日)を乗り越えて年商のピークが120億円。それで渋谷ロフトが(同じく)100億円。でも、120億円、100億円売ってもそんなに儲かっていなかったですから。コストが高過ぎて。本部費を配賦するとあまり残らない。
いま、渋谷や銀座は、客単価アップとインバウンドの急回復もあって、24年度は営業利益率が全社で5%を超えました。2011年の東日本大震災を機に、大型店のトータルの営業利益を標準店が逆転して、その後、年々差が開く一方です。24年度は大型店も十分利益は出ていますが、そういう意味で言うと、稼ぐ収益母体は大型店から標準店に変わっているということです。
ただ、例えば朝の情報番組などの取材を受けているのは、圧倒的に渋谷、銀座です。ロフトのブランドイメージとかブランドパワーとか、あとはやはり情報発信の拠点としてお客さまの強い支持をいただいているので、そういう意味で言うと、バランス良く、大型店と標準店をわれわれも、お客さまも使い分けているのかなという気はします」
業績も好調のようだ。
「2024年度は業績的には、2年連続の最高益でした。それまでは11年度の約32億円が過去最高の営業利益だったのですが、23年度は約42億円、24年度はさらに超えて68億円、2年連続で最高益となりました。売上高は24年度で1215億円です。
(今期)25年度が中期経営計画の最終年度で、営業利益の予算は60億円に置いていますが、ターゲットは上方に置いています。26年度から次の中期経営計画を作りますので、やはり発射台の高さが必要ですし、この最終年度は大事だなと思っています。
新店がここのところ好調なので、去年24年の新店、今年25年に出す新店で、利益をさらに増やしていきます。ロフト(の新店)は回収が早いので24年の新店は当然、営業利益が出ますし、25年度も投資回収まではいかないですが、営業利益は初年度でもトータルでは、ほぼ黒字にはなります。
投資回収も、大体2年で見ていますので、例えば今年の11月に出す店については、翌年では回収はできないですが、その翌年の早い段階では回収できています。これは結構強みだと思っています。
それに加え梅田ロフト(大阪市北区)について、36年お客さまに支持されてきた店ではありますが、契約満了により4月30日にクローズし、5月21日、阪神梅田本店の6階に667坪(2206㎡)の営業面積で移転しました。面積的には4割程度になるのですが、効率は上がると思います。
例えば、もともと天神ロフト(福岡市中央区)はお店段階で赤字でした。6層の単独館で、場所も良くなかったのですが、それを23年4月にユニクロ(ファーストリテイリング)が運営するミーナ天神にリプレースして、ワンフロアにしました。
天神ロフトは、22年度の売上を移ってからのフルイヤーの24年度の売上が逆転しました。赤字のお店が営業利益を出す黒字の店に変わりました。梅田についても期待はしています」
小売業界全体を見渡しても、値上げなどの影響で売上は比較的堅調といえる状況にある。一方でその裏返しとして、経費が高騰し、利益を圧迫している。
「やはり、いまは人件費をはじめとしてコストは上がっていますし、特にキャッシュレス比率が6割を超えていますので販売手数料が非常に増えています。そういう意味で言うと、自分たちでコントロールできない経費が上がっています。
特に人件費は、インフレ基調の中で回りも賃上げをしていることもありますし、優秀な人材確保のためにも、やはりそれなりにしっかり投資をしていかないといけない。
併せて、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の部分で、業務改善のための管理業務を効率を上げていく守備的なDXと、新しい利益を掘り起こしていくという営業的にアグレッシブなDXの2つを対投資効果を見ながらやっていこうと思うと、それなりに売上と営業利益を上げていかないとつじつまが合わなくなります」
そうした中でも「最高益」を続出させているポイントはどこにあるのか。
「例えば(SMは)食品の冷凍、冷蔵ケースは投資がかかりますが、ロフトにはそれがありません。もちろん、資材は高騰していまして、出店投資も、テナントで入りますので、内装、什器だけでそれらが1割弱上がっている感じです。
一方でクローズしたお店や面積を縮めたお店の什器の再利用もしているので、そういったところでコストを抑えています。また、いまの新店は300坪前後の効率の良い標準店が主体ですので、そういう意味でいうと、しっかり売上差益が取れれば早期に黒字化できます」
もちろん、最高益の背景には売上が好調ということもある。現在、ロフトの売上を大きくけん引する分野の1つに「コスメ(化粧品)」が挙げられるという。
「コスメは韓国コスメを中心に、やはり、ネットの時代には情報がいろいろ伝わりやすいので、業界全体が元気です。国別では特に韓国ですし、カテゴリーについては、やはり業界が元気なので、どんどん売れるカテゴリーが変わっていくんですね。2年ぐらい前はブランドメイクの色物が絶好調だったんですけど、それが高質なスキンケアに変わって、いまはヘアケアがすごく伸びています。
やはり、キーワードは高質、高機能、高付加価値で、単価も上がっています。当然、インフレ基調で全体に物価は上がっていますが、コロナ禍では、かなり皆さん、がまんされていました。われわれは遊び心とか、感性的なエモーショナルな付加価値を大事にしているのですが、そういったものにお客さまも手を伸ばされていて、必然的に客単価が上がっています。
併せて、特にSPA(製造小売業)などは、原価が上がって、値上げをすると客数減となるみたいなことの繰り返しの感じなのですが、われわれの客数は微増がずっと続いています。過去2年で客数が前年を割ったのは1カ月しかなかったです。去年の6月になぜか割りましたが、それ以外は102%、103%で客数が伸びていて、客単価は、24年度は107%弱伸びましたから」
「高質」が支持される傾向は昨今、指摘される二極化消費を反映しているともいえる。この傾向はコスメ以外にもいえることなのか。
「全体的なものです。例えばロフトは年間で日傘を大体22億円売っていましておそらく、日本で最も、晴雨兼用傘を売っている企業だと思います。
その日傘について、昔は軽量とか、風に強いとか、水をはじきやすいとかいったものが主でしたが、それに加えてここのところこの暑さで遮熱とか、熱中症対策とか、肌を焼かないといった、いろいろな機能が付け加えられたものをお客さまが求められています。必然的に単価も機能を付ける分、上がりますし、納得して買っていただいている感じです」

リアル店舗のメリットを徹底的に生かす
ロフトといえば、やはりその「品揃え」に大きな差別化ポイントがある。現在、店頭で展開されるアイテム数はどのぐらいなのか。
「標準店では大体2万ぐらい。大型店の渋谷で8万~9万、銀座で5万5000といったところです。その数よりも年に半分入れ替わっていくというスピード感が大事かなと思います。以前は、標準店についてはオペレーションを軽くするために品揃えもいっしょで、『金太郎あめ』みたいな店がいいと言われた時代もありましたが、いまはやはり、マーケット、立地やお客さまに応じて品揃えを変えていくことは非常に大事だなと思っています。われわれはSPAではないので、そういうことをやっていくとお店のメンバーも鍛えられると思います」
SPAの場合、商品開発まで行っているために品揃えを臨機応変に変えることがしづらい。品揃えを変えていけることは、「SPAではない」ことの大きなメリットだ。
「自分たちで選んで、頭でストーリーを考えて、お客さまを見て、『こういう風に売っていこう』ということの繰り返しなので。
カテゴリーでは、『健康雑貨』『文具雑貨』『バラエティ雑貨』『生活雑貨』の4つが大きなカテゴリーです。近年は標準店だと健康雑貨のシェアが50%近くになっています。(若年層が多い)渋谷だとまだ35%ぐらいですが、かなり高まっていることは確かです。
その他には、文具雑貨とバラエティ雑貨がほぼ同じぐらいのシェアで、生活雑貨が一番少ないです。文具雑貨がどこまで落ちるかなと思っていましたが、ようやく下げ止まってきました。やはり、『ロフトはダイアリー(日記)を日本で一番売る』ということで、文具雑貨が結構強かったですが、当然、スケジュール管理がスマホなどITに代わり、どうしてもマーケット的にはシュリンクしています。
それがほぼ一巡して、なおかつ、『推し活』を始めとして自分たちでカスタマイズして、手書きとかシールの要素を付けたりすることでマーケットがちょっと広がってきて、文具雑貨も103%、104%伸びるようになりました。いまは4領域とも数字は伸ばしています」
仕入れによる調達のメリットは、多数の取引先から商品を調達しやすいということになるが、その点、ロフトの取引先は実に約1400社に上るという。結果、登録SKU数は23万ほどに上ることになるが、さらに1年の間にその約半分が入れ変わるといった「新陳代謝」が繰り返されていることも大きな特徴だ。
「登録SKU数は、最近はこの23万ほどを一定として入れ替わっている状況ですね。一時、売上が厳しくなったとき、『売れないから』と、どうしてもバイヤーが『あれも登録しよう』『これも登録しよう』ということで、登録SKU数が30万ぐらいまでに膨らんだことがありましたが、(大型店の)渋谷でも8万しか置けないのだから、登録を増やしても無駄が増えるだけなので、8がけぐらいに絞り込みました。
商品の約半分が入れ替わることについては、前面に出ているシーズン商品が入れ替わっているから半分ぐらい入れ替わっている印象になりますが、実際、売上で見てみると、ロフトではプロパーのシェアが圧倒的に高い。実際のシーズン商品の売上のシェアは12~13%です。
それでも、春夏と秋冬ではがらっと売場が変わりますし、それ以外にも新商品が出るタイミングで、お取引先もわれわれも商品改廃をしていきます。理想で言うと1個入れたら何かをやめるということですが、なかなかそこまではできないものの、それに近い形で半分入れ替わっているような形です。
われわれは昔から『市(いち)』と『蔵(くら)』という言い方をしていて、日常の旬、あるいはシーズン商品など、いま一番お客さまに訴求したい商品を『市』と呼んで前面で売り込んでいます。一方で定番の商品は『蔵』として機能・用途での編集をする。『市』の部分を変えていくから、(半分の)商品が入れ替わっていくわけです。機能・用途の『蔵』の方は単品の入れ替えが多いと思いますが、『市』は塊で入れ替えていくので。
ただ、『蔵』は、『蔵ごと』なくなったりはしますね。例えば家具などはもう扱っていないです。われわれも一時、『インテリア』で10%ぐらいの(売上)シェアがあったのですが、取引していた国内の家具メーカーが減少するなど業界の構造が変わってしまいました。大型店が厳しくなった理由の1つには『インテリア』の領域がなくなったこともあります」
商品を入れ替えるには「次」にどのような商品を販売するのかという戦略が必要になる。「先」を読む力はどのように担保しているのか。
「年間で約4800万人のお客さまが、お買物に来ていただいています。1日当たりにすると10万人ほどですが、若い女性が圧倒的に多い。そういうお客さまから『こういう商品はないのでしょうか』といった話を聞くこともヒントになりますし、また約1400社のお取引先が日々、いろいろな新しい商品、新しいニーズのヒントを持ってきてくれたりとか、さらに、いまコスメの数字を伸ばすことにつながっているイベントを実施したりといったことがあります。
いまは『コスメフェスティバル』として年2回、それに韓国コスメをクローズアップした『Kコスメフェスティバル』も年2回、それ以外にサステナビリティをテーマにした『LOFT GREEN PROJECT』を年2回、『ベストコスメ』も年1回実施しています。
これを店頭と、店外のイベントスペースでのメディア向け展示会と連動させて実施しています。店頭が1カ月など、イベントスペースが東京で1日、大阪で1日、福岡で1日といった形で実施し、大体1回1000人以上のマスメディア関係者、インフルエンサー、ロフトアプリ招待者、お取引先、ロフトのバイヤー・スタッフが一堂に会して開催しますが、そこでの情報交換もものすごく重視しています。
この成功事例を、文具領域でも見習おうということで、『文フェス』『ダイヤリー』のテーマで展示会を実施しています。文具は(お客の)絶対数が多いこともあって、たくさんの方が来ていただけるし、そういった人の輪、ステークホルダー(利害関係者)の中で、日々、いろいろな雑貨の知見が出てくる。それを誰が、どう感じて、切り取っていくのかということが、バイヤー始めお店の担当者の腕の見せどころかなと思っています。
ちなみに自社アプリの「ロフトアプリ」は2014年から展開していますが、累計ダウンロード数は約915万人、アクティブユーザーは約234万人で、そのうち20代~30代の女性が40%のシェアを超えています」
「コスメフェスティバル」を始めとしたイベントが盛り上がっているのは、店舗への集客という点でも重要だ。始めたきっかけはどのようなことだったのか。
「12年ぐらい前から始めたのですが、コスメ業界としてイベントに対する手応えが大きかったことがその背景にあります。雑誌やテレビのようなマス媒体の影響が弱くなり、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などに取って代わられる一方、イベント会場でSNSを使ってインフルエンサーが情報発信するなど、情報の流し方がどんどん変わっている中でイベントが当たり、どんどん予算を拡大し、会場も大きくしながらやってきました。
ロフトが主催していて、いまは新商品の先行限定販売が多いです。それでアプリユーザーのお客さま、メディアやインフルエンサーに、認知を高めるために情報発信してもらう形です」
ロフトにとっては集客およびアプリユーザー拡大につながり、取引先にとっては新商品の宣伝につながり、さらにお客にとっては情報をキャッチすることにつながる、まさに情報版の「三方良し」の取り組みといえる。
「若い女性をターゲットとした業態はそんなにないですから、そういう意味で言うと、サンプリングもすごく効果的だと思っていて、最初は月に1回ぐらいだったんですが、いまは月に約4回各2ブランドで、言い方を変えると延べ80ブランド以上のサンプリングを全国のロフトでロフトアプリのヘビーユーザーに配っています。
1回、先着で2万人、各お店からアプリのユーザーにセグメント配信します。男性や子どもに配信しても仕方がないので、買ってくれそうな女性のところに(笑い)。それでロフトアプリに通知が届いて、一定の期間にお店に来ていただくとサンプリングがもらえます。来店されると、サンプリングをもらうだけでなくて、購入にも結び付きます。それに加えて、ロフトアプリで簡単なアンケートを取ってメーカーさまにフィードバックもしていました。
ただ、この形だと、混雑時にはレジに並ぶお客さまにも、売場担当にも手数をかけてもらう形になるので、渋谷、銀座、梅田では自動販売機のような「ロフボ」(ロフトサンプリングボックス)という機械を新規に設置しました。サンプリングの商品が入れてあり、お客さまがロフトアプリのバーコードをかざすと出てくる仕組みです。さらにサンプリングをもらったお客さまの、その後のロフトの購買行動をメーカーさまにフィードバックするというシステムも考えています。この取り組みは今後、収益源になるのではと期待しています。
ロフトアプリのお客さまのデータについては、購買データをうまく統合して分析できれば、リテールメディアを始めとした、次のデータビジネスも見いだせるのではないかと思っています。売場のデジタルサイネージについても、取り扱っている商品の情報を店内広告として流して、その商品の販売動向とか、イベントをやったらどうなるとか、ポップアップショップ(期間限定の展開)なども含め、(店が)いつもと違う動きをしたときのお客さまの購買行動をお取引先と共有できるようにして、次の戦略に生かせるのではないかということをやっていきたいと思っています」
こうした施策はまさにリアル店舗があるからこそ可能となる。オンラインチャネルが興隆する中、改めてリアル店舗の意義を問い直す動きがあるが、その意味ではロフトの取り組みは先進的だ。そもそもリアル店舗は情報の宝庫であるにもかかわらず、意外に情報が取られていなかったり、整理されていなかったりする。
「リアル店舗のメリット、デメリットがあると思いますが、メリットの部分は生かさないといけないと思います」

「物を作らない」方針をゆるめ、PB開発も
コスメの他には注力分野はあるのか。
「コスメはいろいろやっていますし(笑い)、これも十分にやっていると思いますが、まだ、他のやり方がまだあるのではないかと思っているのが、IP(Intellectual Property、知的財産)です。僕がバイヤーのころは、キャラクターといえばアメリカ製のディズニー商品を輸入するといったことをしていたのですが、いまは昔の狭義のキャラクターだけではなくて、ゲームとか、アニメとか、ミュージシャンとか、いろいろなコンテンツが雑貨になる時代です。
そこで、ロフトのバイヤーが商品を作るところに対して『このコンテンツならここが得意』といったことを見抜いた上で、コンテンツをお持ちの方といっしょになって商品の開発をして、ロフトの店頭で催事的に展開する。場合によっては、キャラバンのような形で全国のロフトで回して行ったり、標準店であればプロパーに落とし込んだり、グループ企業の店に卸売りをしたりといったIPビジネスが、これからもっともっと増えていくのではないかと思っています」
いわゆる「推し活」的なものであるが、オリジナル商品であることが重要になるのか。
「やはり、オリジナルを作らないといけないと思います。もっと言うと会場限定のようなものもあり得るかもしれません。そのとき重要なのは転売ヤー対応も含めて、どのように適度に買いたい人みんなが買えるような売り方をするかになります。いまではスマホを複数所持し、購入数制限をかいくぐる人も登場していますから」
これはプライベートブランド(PB)商品になるのか。
「PBでやることもありますが、リスクを考えて委託でやったりと、その時々に合わせたやり方を追求しています。どうやったら一番リスクを取らないで済むかを考えた上で、お客さまにも喜んでいただき、メーカー、著作権者など全員がハッピーにならないと続かないので、そこはケースバイケースでやっています。僕なんかは『売れるのが見えているんだから全部買い取りでいいんじゃないのか』と気楽に言ったりするんですが、なかなかそうもいかないようです(笑い)。
13年ぐらいにお取引先から『ロフトがナショナルブランド(NB)のアソートがベースなのは分かっているが、これからネット等の時代になってくるときに、ロフトでしか買えない商品がないと厳しくなるのではないですか』と言われ、『それもそうだな』と思いました。
それまでは、『物は作らない』という初代社長の考えもあり、自主開発商品のようなしっかりした物作りはやってこなかったのですが、お取引先からのアドバイスもあって当時の上司と相談しました(当時、安藤社長は商品部部長)。
それで、物の作り方にもざっくり言うと2つあるということを確認しました。1つは本当にトレンドを追いかけて、差別化のために手がけるロフトでしか買えない商品、もう1つはスーパーなどで当たり前の、NBを置き換えてPBにする商品。例えば1000円で売っている商品をPBにして800円で売るといったものです。結果として、ロフトは2つともやることにし、置き換えの商品については(NBと)値段を変えずにやって行こうと決めました。トレンドを追いかけていく塊のロスを置き換えの商品でカバーするという考え方です。
これを13年からスタートし、数値目標としてはオリジナル商品の売上シェア20%で始めたのですが、(製造分の在庫を持つ自主開発のため)売上シェアが20%になる前に在庫シェアが20%になる方が早くて焦りました。
コロナのときに停滞したこともあって、完全な製造委託の売上シェアはPBの7%ぐらいです。ただ、IPやいわゆる売上仕入れの形でやっているもの、他、コスメに代表される先行限定なども全部ひっくめてロフトでしかなかなか買えないものという意味でいうと2割ぐらいにはなってきたかもしれない。その意味では当初の目標に近くはなってきています。
PBをやり過ぎるとスピードの面で、ロフトの強みである年間で半分の商品を入れ替えるスキームが難しくなります。それで初代社長は『物を作らない』と言っていたわけです」
イベントを含め、店舗を非常に重視していることが分かるが、一方のネットチャネルについてのスタンスはどのようなものになるのか。
「ロフトはネットは苦手なんですよ(笑い)。1つは単価が低く、客単価は上がっていますが、例えば1品単価でいうとまだ1000円ぐらい、特に文具は400円ぐらいですから、配送料の部分でペイしないだろうと。
もともと17年に(セブン&アイグループの戦略である)『オムニ7』の一環で始めましたが、20年に(新型)コロナ(ウイルス)を経験してネットストアの重要性が認識されたこと、また、ロフトアプリも14年からスタートしているので、アプリとリアル店舗とネットを融合させることで、お客さまの利便性は高められる。いまの時代に店でしか買えないのは厳しいだろうと思います。
いまでも『儲かる』とは思っていませんが、赤字の幅を減らしたいと思ってやっています。お客さまのご自宅への配送の他、以前はセブン-イレブンでも受け取れていましたが、それがなくなりました。これについては、配送とロフトのお店での受け取りの組み合わせを、コストを抑えてできるようになれば可能性が出てくると思います。まだ、そのやり方がつかめていませんが、あきらめずにこつこつ取り組んでいます」
NBアソート企業のワン&オンリー
効率の高い標準店がボリュームゾーンになる中、成長戦略もそれをベースとしたものとなるのか。
「いまは年間14店ぐらい出店しています。デベロッパー都合の撤退が1、2店ある他、大型店のリプレースなどもあるので、14店舗ぐらい出して、純増が10店舗くらいといったところがアベレージです。出店余地もあり、2030年まではこのペースで出店を続けられるのではないかと思っています。
例えば、グループのイトーヨーカ堂、ヨークベニマルのない地域のイオンのショッピングセンターには出店余地はあると思いますし、ロードサイドにネイバーフッドショッピングセンターのような感じでも出店していきたいと思っています。
また、約35坪の小型店の『コスメロフト』もあります。いま6店舗展開で、レジの問題その他でなかなかオペレーションが軽くできなかったのですが、だいぶ進んできたので、多店舗化していきたい。また、80坪~100坪ぐらいの『小型ロフト』も標準店並みの営業利益率が出せるようになってきました。
コスメロフト、小型ロフト、ロードサイド、標準店をこつこつ、年間10店以上、2030年まではやっていきたいと思います」
直営店の他、フランチャイズチェーン(FC)店も手がけている。
「FCについては、まだしっかり描けているわけではないですけれども、1つはロイヤルティについて、さらにブランド力を上げていくことができれば当然、もう少し上げられる。店舗についても、もう少し国内でも増やしても良いのかなと思っています。
また、次の世代の仕事になりますが、海外でのビジネスです。2031年以降、国内でどれだけ出店できるか、成長できるかということが当然ありますので。直営もFCも中国の上海とタイのバンコクで経験してきましたが(現在、その2国に出店)、もしかしたらロフトはジョイントベンチャーのようなやり方が一番向いているのかなと思います。その意味で言うとベトナムなのか韓国なのか、まだ分かりませんが、FCプラスアルファで後身の人に、現地の有力企業と、銀行なり、商社なり、つてをたどってトライをしてもらえればと思っています。直営だと、回収に時間がかかるので、ジョイントベンチャーの形が良いのではと思っています。
アメリカやオーストラリアが良いという意見もありますが、いまはアジアにしっかり集中します。とはいえ、例えば(アメリカ・ニューヨークの)マンハッタンだと、雑貨などはみんな値段を見ないで買うという。その意味ではどの国がロフトに向いているのかといったことも考えています。
品揃えとしては大商圏のイメージが強いロフトだが、商圏人口の設定をどう考えるのか。
「かつては30万人などと言っていましたが、いまは商圏人口よりも、デベロッパーの中に入っているテナントの構成を見て、有力な企業が入っている施設なのかを重視します。さらに施設内の立地です。以前はロフトは、アパレルのゾーンに出ることを望んでいましたが、いまとなっては食品の横の方がありがたいし、フードコートからの流れがあるところが良いとなっています。
やはり、お客さまの密度が濃いところであり、それなりの仲間(有力テナント)がいる商業施設であれば、商圏人口はそれほどは気にしません。
セブン&アイグループからの独立性を高めたヨーク・ホールディングスの傘下に入ったが、今後、セブン&アイを含むグループ戦略はどう描くのか。グループシナジー創出に向けた新コンセプト店舗として昨年2月にオープンした「SIPストア」に「ロフト」のコーナーが設置されるといった動きもある。
「1つは商品開発のベーシックなところをもう一回、やりたいと思っています。これからですが、組み先にもやりたいと言ってくれているところがあるので、そことできるようになると、例えば単品でセブン-イレブンへの卸売りなどが考えられるようになる。
SIPストアのコーナーの数字は悪くないです。セブン-イレブンとはいままで3回ほど実験していて、1回目は文具に取り組み、実験の成果はありましたが、長続きはしませんでした。次に、『ロフトセレクト』として2ラックで展開する取り組みがありまして、展開店舗数は1800店舗まで拡大していますが、扱い規模はなかなか広がりません。一方、SIPストアは直営だからということもあって売場も乱れず、5ラックぐらいで展開していて売上も悪くない。やり方によってはあるのかなと思っています。
後は先ほどのヨークベニマルとの(出店の)取り組み。イトーヨーカ堂は、FC、直営合わせて店舗数は一番多いので、今後もしっかりご協力させていただけるのではないかなと思っています」
業績も好調、標準店をベースに出店も継続的にしていくなど、まさに攻めのフェーズに入っているといえる同社。安藤社長は、特にどのような数値に注目しながら経営を実践しているのか。
「客数はすごく意識していて、特に既存店の前年比を見ています。あとは営業利益率。かつては3%を超えたいと思っていました。それで2020年に25年度1200億円の年商で36億円の営業利益を計画したのですが、結果的に24年度に5.11%を達成することができました。
『営業利益率5%』を目指しつつ、営業投資もバランス良くやりながら、お客さま、お取引先、従業員、地域社会、株主の『五方良し』の100年安定企業を目指し、安定成長していけるようにしたいと思います。
右肩上がりの急成長は全然、考えていませんし、もともと大企業になるつもりもないです。特色のある雑貨の専門店、パーパスにあるように『雑貨のチカラで新しい生活価値を創造する。』ことを目指し、期待される場所に、ワクワク、ドキドキするロフトを出店して、『こんなものが欲しかった』と喜んでもらえるような商品を集めて、お客さまに適度な、気持ちの良いサービスを提供することで、日々の暮らしになくてはならない存在になりたい。
(新型)コロナ(ウイルスのパンデミック)のときに『食料品以外の雑貨はいらないんじゃないの』ぐらいのことを言われていましたから、『そんなことはない』と。『インフラ』ではないかもしれないですが、やはり、日常の豊かで楽しい暮らしには欠かせない一番の存在でいたいと思っています。NBアソート企業のワン&オンリーを目指していますので、よろしくお願いします」
安藤社長自身、西武百貨店に入社後、結果的にロフトのバイヤーになり、その後、社長を務める現在までずっとロフトにかかわってきた。ビジネス人生をどのように振り返る。
「良かったと思いますよ(笑い)。入社後、最初は書籍の担当でしたが、その後、いろいろな人との出会いがあり、シード館の雑貨を担当し、それで(ロフト館の前身の)新C館プロジェクトを担当することになりました。そのころはまだバイヤーではなかったですが、本当に自由にどこにでも行かせてもらって楽しかったですね。
一番良かったのは、趣味雑貨はそうでもないのですが、生活雑貨の取引先の場合、家庭用品、婦人雑貨、紳士雑貨、インテリアなどすでに西武百貨店渋谷店として取引があるわけです。われわれがそこに行っても、もともと取引のある部門を優先するので、あまりいい顔をしない。だから結果として取引のない、街の路面店に商品を卸しているような専門店に行くことになったのですが、それでロフトのモノ選び・物づくりの仕事を学ぶことができた。それが良かったなと思いますね。
新卒の面接をしていると、メーカーと小売りとを両方志望する人に出会いますが、そのときに言うことがあります。日本のメーカーは非常に優秀ですが、そこに入るとその分野しかできない。一方でロフトに入るといろいろなカテゴリーがあって、自分でさまざまな商品領域の中から商品を選んで編集することは当然のことながら、さらに物づくりもできる。選択の可能性は非常に広いと。その意味で言うと、ロフトの良さは個人個人が自分の志向に合わせて、もしくは年齢や経験に合わせて目指す方向性、可能性が非常に多様にあることではないかと思います」
さらにIPビジネスや国内外を含めたアライアンスビジネス、データビジネスも含め「小売業ならでは」というより、「ロフトならでは」という点で、仕事の幅はより広がりを持ってくる。
百貨店から生まれ、現在でも小売業のフォーマットとしてユニークな存在感を持つロフトだが、事業の形という点でも、小売業という枠にとどまらないユニークな、ワン&オンリーの存在として異彩を放っている。










