バイオマスプラスチックとは?種類やメリット、企業の導入事例などを解説

2022.10.05

2022.03.30

持続可能な社会の実現に深く関わる要素の1つに、地球温暖化の原因となるCO2(二酸化炭素)の排出量の削減がある。

そのための取り組みのなかでも注目されているのが、石油由来のプラスチックからバイオマスプラスチックへの置換である。バイオマスプラスチックの概要や種類、用途、メリット・デメリット、さらに企業のバイオマスプラスチックへの取り組み事例を解説する。

目次

バイオマスプラスチックの概要や種類、用途を解説

バイオマスプラスチックの概要や種類、用途、生成方法、さらにバイオプラスチックとの違いを解説する。

バイオマスプラスチックとは

バイオマスプラスチックとは、植物などの再生可能な有機資源(バイオ資源)を原料として作られたプラスチック素材を指す。バイオマスプラスチックの原料には以下のものが用いられている。

  • コーン
  • 小麦
  • さとうきび
  • キャッサバ
  • 馬鈴薯
  • さつまいも など

バイオマスプラスチックには、バイオ資源のみで作られた「全面的バイオマス原料プラスチック」と、バイオ資源と石油由来のプラスチックを原料として作られた「部分的バイオマス原料プラスチック」の2種類がある。

バイオマスプラスチックとバイオプラスチックの違い

バイオマスプラスチックと似た言葉に「バイオプラスチック」がある。バイオプラスチックとは、バイオマスプラスチック、生分解性プラスチック、バイオマスプラスチックかつ生分解性プラスチックの3種類のプラスチックの総称だ。つまり、バイオマスプラスチックとはバイオプラスチックの一種といえる。

植物などの有機資源を原料としているバイオマスプラスチックは、焼却しても原料が残り分解されない非生分解性であるのに対して、化石由来の生分解性プラスチックは、微生物によって最終的に二酸化炭素と水に分解される性質を持っている。さらにバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの両方を原料としているプラスチックも、バイオプラスチックに含まれる。

バイオマスプラスチックの種類

バイオマスプラスチックには、主に以下の4種類がある。

  • バイオポリエチレン
  • バイオポリカーボネート(バイオPC)
  • バイオポリアミド
  • バイオペット

バイオポリエチレンとは、汎用プラスチックと呼ばれるポリエチレンが、バイオ資源由来の原料で生成されたものだ。電気や情報機器の部品から衣料素材まで、幅広い用途で使用されている。

バイオポリカーボネートとは、エンジニアリングプラスチックの1つであるポリカーボネートのバイオ資源由来のものを指す。ポリカーボネートの持つ高い耐衝撃性と耐熱性を活かし、自動車部品などに使用されている。バイオポリアミドやバイオペットは、一部の原料をバイオ資源として作られるバイオマスプラスチックだ。

現在でも、新たな種類のバイオマスプラスチックの開発が進められている。上記の4種以外にも主要となるバイオマスプラスチックの誕生が期待される。

バイオマスプラスチックの用途

バイオマスプラスチックは、以下などの用途で使用されている。

  • 非食品容器包装
  • 衣料繊維
  • 電気・情報機器
  • OA機器
  • 自動車
  • エコ知育機器
  • クッション
  • 人工芝
  • 耐熱性食器容器

液体ボトルやペットボトルのラベルフィルム、窓貼り封筒の窓部分などの非食品容器包装、衣類や浴用タオルなどの衣料繊維、パソコンの躯体や複写機などの電気・情報機器やOA機器の部品、カーシート、ドアトリム、ラゲージドアトリムなどの自動車部品に使用されている。

一方バイオマスプラスチックと同じバイオプラスチックである生分解性プラスチックは、食品トレーや卵パックなどの食品容器包装、生ゴミ袋、土嚢(どのう)袋や農業用マルチフィルムやロープなどの農業・土木資材として活用されている。

この背景にはバイオマスプラスチックの原料と人間の食糧としての競合を防ぐ目的がある。

バイオマスプラスチックの原料の1つにコーンなどからのデンプンがあるが、コーンなどは人間の食糧としての役割もはたしている。コーンなどをバイオマスプラスチックの減量として多く使用してしまうと、今度はコーンなどの食料が不足する可能性があるのだ。食糧としてのコーンなどが不足することで価格が高騰し、発展途上国など必要なところへ食料が行きわたらない可能性がある。

この問題を防ぐためにバイオマスプラスチックは非食品用、生分解性プラスチックは食品用と用途を二分化している傾向にある。セルロースや家畜用のデントコーン、サトウキビの澱粉、トウゴマのひまし油など主食として用いない植物を原料として採用することで、バイオマスプラスチックの原料と食糧の競合が防げることがわかるだろう。

バイオマスプラスチックの生成方法

バイオマスプラスチックの生成は、以下2種類の方法がある。

  • 発酵法
  • 化学合成法

発酵法とは、原料となる植物を発酵させてプラスチックを生成する方法だ。サトウキビやとうもろこしなどの糖や油脂を発酵させると、エタノールなどの中間原料が得られる。中間原料を元にプラスチック樹脂を合成し、製品として成形する。

化学合成法とは、植物の糖や油脂などをそのままプラスチック樹脂として合成する方法だ。調理用途で使用後に出る廃植物油や、製紙工程の副生成物であるトール油などの植物由来成分の廃棄物を原料としたバイオナフサを製造し、化学資源由来のナフサと混合してプラスチック樹脂を合成する化学合成法も誕生している。

バイオマスプラスチックの確認方法

従来の石油由来のプラスチックとバイオマスプラスチックを区別するために用いられているのが、加速器質量分析法(AMS法)による測定だ。

炭素の同位体C-14は石油にはほぼ含まれず、バイオマス原料には一定量が含まれている。加速器質量分析法(AMS法)によって、炭素の同位体C-14の含有量によるバイオマス比率を測定し、バイオマスプラスチックにあたるかの確認が可能だ。

バイオマスプラスチックのメリット

バイオマスプラスチックには、従来の石油由来プラスチックにはない多くのメリットがある。バイオマスプラスチックがもたらすメリットを解説する。

地球温暖化の問題改善につながる

地球温暖化の原因であるCO2の排出量を減らせるのが、バイオマスプラスチックの最大のメリットといえるだろう。従来の石油由来プラスチックは焼却処分をすると、CO2が発生する。

バイオマスプラスチックも焼却時は同様にCO2が発生するが、植物原料のため光合成で同じ量のCO2が吸収される。そのためCO2の排出量と吸収量の総量がプラスマイナスゼロとなり、高いカーボンニュートラル性を発揮できる。

海洋資源への影響の低減

人間の社会生活によって生み出されたプラスチックごみが海や川へ流出し、海洋生物への被害や生態系への悪影響が懸念されることが社会問題となっている。

海や川へプラスチックごみが流出される経路は、海や川へのプラスチックごみの直接投棄だけでなく、ごみ集積場に残された家庭ごみや、劣化した土嚢やプラスチックシート、農業用資材の破損した一部が風で運ばれることもある。そのため海洋へ流出されるプラスチックごみを100%元から断つのは難しいといえるだろう。

プラスチックを石油由来ではなくバイオ資源由来のバイオマスプラスチックや生分解性プラスチックに置き換えることで、万一プラスチックごみとして海洋に流出しても、海や川の生態系に悪影響を与えることが少なくなる。

もちろん海や川へのプラスチックごみ流出を防ぐことも重要だが、流出した後でもバイオマスプラスチックなら環境面でのフォローができるだろう。

資源活用の持続性につながる

一般的なプラスチックの原料である化石や石油は、有限資材だ。このまま使い続けていると、地球上から枯渇する可能性がある。プラスチックの原料を化石や石油のみに依存するのではなく、植物などの有機原料へ置き換えることで、資源活用の持続性につながるのもメリットだ。

植物はプラスチックの原料として伐採をしても、1~10年サイクルで再生産ができる。資源の循環性が高い点も、バイオマスプラスチックのメリットにあげられる。

廃棄物の循環性が高い

不要物となったプラスチック製品は、一般的には焼却処分される。その際に、当然ながら地球温暖化の原因となるCO2が排出されるだけでなく、焼却処分へのコストも発生する。

バイオマスプラスチックは不要物となった後は、生物処理をすることで堆肥として再利用したり、ガス化して廃棄物を出さなかったりすることもできる。プラスチック製品として製造されてからだけでなく、不要となった後の処分面でも石油由来プラスチックと比較して大きなニュートラル性を持っている。

従来のプラスチックからの転換が容易

バイオマスプラスチックは、従来の石油由来のプラスチックから転換する場合にも、障害となる部分が少ない。

たとえば、プラスチック樹脂を成形し、プラスチック製品を作り出す方法として広くもちいられている射出成形(インジェクション成形)は、原料がバイオマスプラスチックになっても利用可能だ。成形からリサイクル性、部品への転換なども従来のプラスチックと同様に行えるため、転換が容易なのもメリットといえるだろう。

バイオマスプラスチックのデメリット

バイオマスプラスチックは環境面やリサイクル面で特に多くのメリットがある一方、デメリットもある。バイオマスプラスチックのデメリットを解説する。

材料費用が高くなる

バイオマスプラスチックは従来のプラスチックからの転換がしやすいメリットがあるものの、原材料面での調達費用が高くなるデメリットがある。

小売店などにおけるレジ袋有料化において、「バイオマス素材の配合率が25%以上」「海洋性分解性プラスチックの配合率が100%の素材」「繰り返し使用が可能とされるプラスチックフィルムの厚みが50ミクロン以上のもの」の条件を満たしたレジ袋なら無料で配布ができる。

しかし条件を満たしたレジ袋の製造コストは石油由来のプラスチックよりも高くなることがほとんどだ。顧客満足度の向上を目的にレジ袋を無料で配布をしようとしても、条件を満たすバイオマスプラスチック由来のレジ袋は製造コストが高すぎるため断念する、という小売店も多いだろう。

材料調達や製造における費用面が、バイオマスプラスチック導入の障壁の1つとなっているといえる。

従来のプラスチックと比較し機能が劣るものがある

石油由来の従来のプラスチックとバイオマスプラスチックを比較すると、強度や耐久性などでバイオマスプラスチックが劣る場合がある。同じプラスチック製品を作る場合、石油由来のプラスチックであれば繰り返し使用できる強度があるが、バイオマスプラスチックの製品では繰り返しの使用に耐えられないため、使い捨てが前提となることがある。

機能によっては環境中で分解されないものがある

石油由来の従来のプラスチックと同強度の性能を持つバイオマスプラスチック製品を作る事も可能だ。

たとえば、ある程度強度が必要なレジ袋はバイオマスプラスチックを原料として作ることもできる。ただしその分バイオマスプラスチックの密度や使用量も多くなるため、結果的に環境中で分解されなくなるデメリットがある。

バイオマスプラスチックは、100%有機原料由来の全面的バイオマス原料プラスチックだけではない。有機原料と石油由来原料を混合して作られた部分的バイオマス原料プラスチックもある。一部でも石油由来原料が混合しているバイオマスプラスチックは、従来のプラスチック製品と同様に焼却処分するしかないのもデメリットだ。

カーボンニュートラル性以外での悪影響

バイオマスプラスチックの種類によっては、CO2の輩出におけるカーボンニュートラル性は発揮できるものの、それ以外の面で環境へ悪影響を与えるものもある。たとえば製造工程で石油を使用する、焼却処分時にメタンが発生するなどだ。

企業のバイオマスプラスチックの取り組み事例

環境に調和した循環型社会の実現のために、バイオマスプラスチックが注目されている。バイオマスプラスチックを積極的に導入している企業の取り組みについて解説する。

株式会社ファミリーマート「ファミマecoビジョン2050 プラスチック対策」

出所:ファミリーマート

日本全国にコンビニエンスストア店舗を展開するファミリーマートは、持続可能な社会(SDGs)の実現へ貢献するための「ファミマecoビジョン2050」を策定した。3つのテーマの1つである「プラスチック対策」の一環として、ファミリーマートで販売する一部のパスタ容器を再生可能資源由来のバイオPPに変更している。

商材の容器や包材をバイオマスプラスチックや再生PETを配合した環境配慮型素材への切り替えを、2030年に60%、2050年に100%達成を目指している。

カシオ計算機株式会社「PRO TREK(プロトレック)PRW-61」

カシオ計算機の展開する本格アウトドアウオッチ「PRO TREK(プロトレック)」シリーズで、再生可能な有機性原料を含むバイオマスプラスチックを取り入れた「PRW-6」が2022年3月25日に発売される。

同社の時計製品の原料としてバイオマスプラスチックを取り入れた事例は初。ケースとウレタンバンド、樹脂の裏蓋にトウゴマの種やトウモロコシから抽出した成分を含んだバイオマスプラスチックを採用している。

「自然を愛する」PRO TREKのコンセプトとマッチさせた、持続可能な社会の実現への取り組みといえるだろう。同社は「CASIO Collection」のパッケージをプラスチックから再生紙に変更するなど、ほかにも環境を考慮した取り組みを行っている。

イオンディライト株式会社「食品用フィルムとレジ袋のバイオマスプラスチック素材導入」

イオンディライトでは、2030年までに2018年比で使い捨てプラスチック使用量の半減を目指す「イオンプラスチック利用方針」を策定している。

その取り組みの1つとして、飲料用のペットボトルのシュリンクラベルや米袋、食品用フィルムにバイオマスプラスチックを含む素材を導入している。

たとえば、同社のプライベートブランド「トップバリュ」の食パン商品「パン・ド・ミ」の食品フィルムは、バイオマスプラスチックを10%配合した原料を採用し、さらにバイオマス由来の成分を含むインキで印刷されている。

また、店舗で配布している有料レジ袋はバイオマス配合率が30%および50%のもので、バイオマス配合率25%以上の有料レジ袋の規格対象外の基準を満たしているのも特徴だ。

イオン株式会社「ISCC認証不織布マスクの発売」

イオンのプライベートブランド、「トップバリュ」からバイオマス原料プラスチックを使用した「トップバリュ ISCC認証不織布マスク」が発売されている。ISCC認証とは、持続可能なバイオマス資源とバイオエネルギーの促進を目指す国際的な認証制度だ。取り扱い店舗はイオン、イオンスタイル、マックスバリュなど日本全国の約1,800店舗に及ぶ。

一般的な不織布マスクは石油由来プラスチックから作られていることに加えて、衛生用品のためリサイクルしにくい問題がある。「トップバリュ ISCC認証不織布マスク」は本体の不織布部分の一部にバイオマス原料プラスチックを使用しているのが特徴だ。

花王株式会社「製品ボトルへのバイオマスプラスチック導入」

出所:花王

花王では、2009 年にライフサイクルでの CO2排出量の削減(35%減)を目標に含む環境宣言を公表した。

その一環として「メリット」のシャンプー、リンスのポンプタイプボトルの全体重量の30%、「エッセンシャル」「アジエンス」「セグレタ」のシャンプー、リンス、コンディショナーのポンプタイプボトルの全体重量の20%、「キュキュット」(大型詰め替え7回分)のボトル全体重量35%、それぞれにバイオマスプラスチック由来の原料を導入している。

2019年の同社のバイオマスプラスチック使用量は、全社で463 トン、前年比1.2 倍の成果となった。

持続可能な社会の実現に深く関わるバイオマスプラスチック

バイオマスプラスチックの概要や種類、生成方法、メリットやデメリット、企業のバイオマスプラスチック導入や取り組み事例を解説した。バイオマスプラスチックはまだ主要な種類は少なく、さまざまな機能を付与した新しい種類の開発が期待されている。

今後企業が主体となりバイオマスプラスチックを導入することで、持続可能な社会の実現にも大きく貢献するだろう。

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