ネットスーパープラットフォーム「Stailer」提供の10Xが現場向けAI・DX領域に進出、第1弾をデリシアが導入決定

2025.05.20

ライフコーポレーション、フレスタ、デリシア、アルビスなどのネットスーパーのアプリを手がける10Xが、同社の主力の製品である「Stailer(ステイラー)」の新戦略を発表した。

5月20日、都内で開催した発表会に臨む矢本真丈・10XCEO(右)と、新プロダクト第1弾「Stailer AI発注」の導入を決めたデリシアの森 真也社長(左)

従来のネットスーパー立ち上げ、運営に特化したプラットフォームにとどまらずAI(人工知能)を活用し、小売現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)全般を支えるマルチプロダクト(複数製品群)へと進化させる。

2025年中にStailerシリーズで既存プロダクトを含め5プロダクト、26年に1プロダクトの提供を予定するが、その第1弾として、「Stailer AI発注」を7月にリリースする。5月20日に開催した発表会で同社の矢本真丈CEOは、スーパーマーケット(SM)の経営において労働生産性の改革が求められているとの認識を示した上で、次の2点の課題があると指摘した。

労働生産性は人時など人の稼働当たりの粗利益であるが、「1つは粗利益が圧迫されていること。もう1つは人手不足」(矢本CEO)。その上で、「食品は特に価格の転嫁が難しい商材だと思っている。価格が安いものを探すのは一般の消費者行動としてもすごく自然なもの。価格の転嫁が難しいため、原価が伸びてきた時に粗利益が圧迫されやすい構造を生んでいる。加えて、慢性的な人手不足がいま、いろいろな産業で話題になっているが、SMでも同様の状態と思っているし、特に事業の継続にすごくインパクトがあると捉えている」(同)とする。

それを踏まえ矢本社長は、SMの労働生産性向上のためには重要になる要素として、「粗利益の創出」と「業務の量の抑制」を挙げる。具体的には、粗利益の創出についてはデジタルの販路の拡大、価格、販促の最適化など。業務量の抑制については本部、店舗の業務の効率化が求められると強調した。

10Xは2020年にネットスーパーのプラットフォームとしてステイラーの提供を開始し、現在、全国のSM、ドラッグストア13社に導入されている。システムを導入するだけでなく、採算性の課題解決にも取り組み、複数の導入企業の事業黒字化に貢献しているという。

「具体的に何をしたのかといえば、やはりパートナーさまの経営、会計、現場に深く入っていく必要があり、それを受け入れていただいた。われわれがご支援させていただいているポイントが大きく3つ。まず、かご単価をしっかり増加させること。2つ目が粗利益率の改善。3つ目がオペレーションコストの改善」(矢本CEO)

今回、そのネットスーパーを通じて蓄積された知見を活かし、小売事業者の経営課題をより直接的に、スピード感を持って解決していくため、Stailerの領域を「ネットスーパープラットフォーム」から「小売DXをまるごと支えるプラットフォーム」に進化させる。

具体的には「粗利創出」の「業務改善」「データ運用」といった経営課題に対応した複数のプロダクト群を提供。また、昨今急激に普及が進むAIもプロダクトに組み込む。

「粗利創出」では「Stailer ネットスーパー」「Stailer OMNI」「Stailer  AIプライシング」の3つ、「業務改善」では「Stailer MD」「Stailer AI発注」の2つ、「データ活用」では「Stailer データストア」がそれぞれ対応。同時に、各プロダクトの共通の基盤として「Stailer ID」と「Stailer データストア」位置づけ、各領域で円滑にデータの利活用を可能にする。

直近の7月にStailer AI発注、25年の冬までにStailer  AIプライシング、Stailer MD、 Stailer データストア、そして来年26年春にStailer OMNIといった流れでリリースを予定する。

発注を皮切りにプライシング、MD、OMOに踏み込む

第1弾のStailer AI発注は、小売業で長年課題とされてきた発注業務の属人化や手作業による負荷の根本からの解消を目指す。売上げ、天候、販促情報など発注の判断に必要な多様なデータを統合し、AIが最適な発注内容を自動で提案する。担当者の経験や勘に依存せず、誰でも安定的に最適な判断をすることができるとしている。作業はスマートフォンで完了させることができ、大幅な業務時間の削減、生産性の改善が見込めるという。

今回、導入パートナーとして長野県に約60店のSMを展開するデリシアの導入が決定しているとし、発表会には同社の森 真也社長も登壇した。同社はステイラーを通じ10Xと共にネットスーパー事業の黒字化を実現してきました実績を持つ。今後はStailer AI発注を活用し、10Xと共に業務の再設計と生産性向上を両立させるモデルケースの構築を目指す。

「デリシアとしても、重要予測の自動発注自体はもともと導入を検討していた。その中で、課題感を矢本さんにご相談させていただいた。いま現場の調査からいっしょにやっている。データ、システム上の課題など運営上の課題も全ていっしょにあるべき姿に変革していこうということでご協力をいただいている。同じゴールを共有するパートナーとして、利害を一致させて、ぜひ、今後の小売りの未来を切り開くDXを期待している」(森社長)

Stailer AI発注は、初期導入費用と利用店舗数に応じた月額費用によるSaaS型(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)。1店舗当たりでは数万円から導入可能ということでリスクを抑えた導入が可能としている。

他のプロダクトとしては、25年に冬にリリース予定のStailer AIプライシングは販売実績、価格、在庫データを基に、AIが粗利益目標に応じた最適な商品、価格を自動で算出するプロダクト。価格変更の影響も追跡できる上、売上げ、粗利益率、PI値などの変化をモニタリングしながら価格弾力性を全商品単位で分析、最適化できるのが特徴で、これまで手作業では不可能だった価格操作の最適化を日常業務に組み込めるようになることで利益の最大化を見込めるとしている。

Stailer MDは小売り、卸、メーカーなどの間で商品に関連するデータの流通と活用を標準化、効率化する基盤。各種情報を統一し、ネットスーパーだけでなく、小売現場全体にかかわるデータの集約、統合、活用を行うための基盤となるものになっている。

26年春にリリース予定のStailer OMNIは既存の店舗IDやポイントシステムとネットスーパーのシステムを統合するOMO(オンラインとオフラインの融合)アプリで、店舗とオンラインを一気通貫でつなぐ顧客体験を提供でき、IDや購買履歴も統合することで1人1人のお客の属性に応じた販促活動が可能になるという。

デリシアとしては、今後の課題として当面は商品データ管理、AIプライシングの2点から改革に取り組みたいとしている。

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