フィジカルインターネットとは?背景にある物流業界の課題や取り組み事例を交えて解説

2023.01.04

2022.09.30

フィジカルインターネットとはインターネットを物理的に再現し、より効率的な物流を実現させることをいう。

近年の日本でのトラック配送の非効率化に鑑みて、2022年3月には経済産業省と国土交通省がフィジカルインターネットのロードマップを発表した。この記事ではフィジカルインターネットの意味や現在の取り組み状況、将来の展望などを解説する。

「フィジカルインターネット」とは?

2022年3月、経済産業省と国土交通省は2040年を目標に「フィジカルインターネット」を実現させるためのロードマップを取りまとめた。物流業界で横断的に取り組みを進め、配送ルートを共有した不特定多数による物流を目指す考えだ。

フィジカルインターネットが実現すれば、物流効率と労働環境の改善が図られる。加えて災害対策や輸送手段の多様化、地域間格差の解消や買い物弱者への対応なども期待されている

フィジカルインターネットとは物理的なインターネットのこと

「フィジカルインターネット」とは、インターネットの仕組みを物理的(フィジカル)な物流で実現させることをいう。

インターネットはパソコンで送信するデータをパケット単位に分割、適したルートを選んで相手先に送信し、受信側が分割されたデータを復元する。通信網は世界中に広がっているため、相手に瞬時にデータを届けられるのが利点だ。

従来の物流は自社の大型倉庫に荷物を集約、そこから各地の小型倉庫へ移してから相手先に配達していた。フィジカルインターネットはそれとは異なり、自社に限らず目的地への最短ルート上にある倉庫を経由して配達する。

期待されるフィジカルインターネットの経済効果

経済産業省と国土交通省は、2040年までを目標にフィジカルインターネットを実現させたい考えだ。フィジカルインターネットが完成すると、11.9〜17.8兆円の経済効果が期待できると見込んでいる。さらに、温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の2050年の実現にも貢献すると予想されている。

近年の日本企業が抱える物流の課題

1990年代の物流業界の規制緩和によりトラックドライバー数は減少しているが、一方ここ10年ほどで宅配便の取り扱い数が激増している。加えてCO2の削減目標達成が後ろ倒しになっており、フィジカルインターネットで問題を解決しようとする動きが加速している。

労働人口は減少傾向

1990年代、物流業界では経済活性化を目的とした規制緩和政策が実施された。企業間の価格競争が激化した一方でドライバーの労働環境は悪化し、2000年代後半以降は数が急減した。

少子高齢化もドライバー不足の一因となっており、これからさらに減少傾向は加速するかもしれない。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会は、2030年には物流需要のうち36%ほどに対応できなくなるとする試算を発表している。”

宅配便利用は大幅拡大

Amazonや楽天などのネット通販の利用拡大により、ここ10年ほどで宅配便の取り扱い数は大きく増えた。加えてコロナ禍の巣ごもり需要により、2020年度のヤマト運輸とS佐川急便の宅配便取り扱い個数は過去最多を更新している。

その影響で以前よりも一般家庭向けの多品種・小ロットの荷物が拡大傾向だ。トラックが配達先へ行く回数が増える一方、空きスペースが増えて物流効率は悪化している。荷物の上げ下ろしの頻度も増えているため、ドライバーの負担が増していることも大きな課題だ。

CO2の排出削減の目標達成は遅れている

日本は、2050年に温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする「カーボンニュートラル」の実現を目指している。省エネとともに、脱炭素エネルギーの利用削減が企業全体に求められている。

日本のCO2排出量は約11億トンで、そのうち貨物用自動車の排出量は6.8%ほどである。宅配便の急増とともにトラックの走行量も拡大しており、CO2の排出削減目標達成が遅れているのが現状だ。フィジカルインターネットを実現できればCO2排出量が減り、環境への負荷を減らせると期待されている。

フィジカルインターネットを実現させるには

フィジカルインターネットを実現させるには、荷物サイズの標準化や物流資産の共有化が必要だ。そしてそれらを支える情報システムも不可欠になるだろう。

荷物のサイズを標準化して配送効率を上げる

商品ごとに荷物の大きさを変えるのではなく、統一して標準化する。荷物の大きさがばらけていると荷室に隙間ができて積載効率が悪くなるが、すべての荷物の大きさを揃えることで解決できる。加えて荷積みの手間が減るメリットもある。

荷物のサイズを標準化し、フィジカルインターネットを実現させるためには、荷主の協力も重要になる。メーカーは、標準化サイズに収まるような商品を開発する必要もあるかもしれない。

物流資産を共有して効率化する

倉庫や輸送手段などの物流資産を企業問わずシェアリングできれば、物流効率を上げられる。荷物を運ぶのに自社の倉庫とトラックを使うのとは異なり、横断的に他社の物流資産を利用することで、最短ルートで荷物を運べるからだ。

物流資産のシェアリングは、倉庫の稼働率とトラックの積載率を増やすことにも寄与する。トラックの稼働台数は減り、CO2排出量の削減と生産性アップにもつながる。近年は複数の企業が協力して物流資産をシェアリングする「共同輸送」の実証実験が各地で進められている段階だ。

共通して使える情報システムを整備する

物流資産を企業問わずシェアリングするためには、共通して使える情報システムも必要だ。参加する企業がそれぞれ、各社の倉庫の空きや配送ルートの状況などをリアルタイムで確認できるのが望ましい。加えて荷物の行き先により、最適なルートをすぐ判断してくれるシステムがあれば、現場の動きがより効率的になる。

海外で進むフィジカルインターネット

ヨーロッパでは2013年に欧州物流革新協力連盟(ALICE)を発足した。行政と研究機関、大手企業が一体となってフィジカルインターネットを推進している。ALICEは2050年までの「ゼロエミッション(世界のCO2排出量を実質ゼロに)」を実現させるべく、ロードマップも作成している。

アメリカのネット通販大手Amazonは、物流資産を他社にも開放するなどフィジカルインターネットに向けた取り組みを実践している。航空物流の拠点である空港をドイツの物流大手とシェアしているのはその一つだ。アメリカとヨーロッパは時差により稼働率が高い時間が異なるため、シェアにより空きリソースを活用し、物流効率を高めている。

日本で始まっているフィジカルインターネットの取り組み

日本でも、フィジカルインターネットの実証実験を各地で開始している。以下では5つの取り組み例を紹介する。

加工食品大手6社の協議体「F-LINEプロジェクト」

F-LINE株式会社はF-LINE出資メーカーなどの商品を預かり、全国への物流ネットワークを提供する企業である。「F-LINEプロジェクト」はハウス食品と味の素、カゴメ、日清オイリオグループと日清製粉ウェルナの加工食品大手6社の協議体で、加工食品分野において持続可能な物流プラットフォームの構築を目指している。

現在の加工食品物流では手間のかかる小ロット納品や納品まで検品に多くの回数を要する多頻度検品など、足元課題が山積しているのが現状だ。F-LINEプロジェクトでは外装サイズの標準化や納品伝票の電子化などの標準化を推進し、協業体制をつくる取り組みを行っている。

アサヒとキリン、サッポロ、サントリー4社の共同配送

アサヒビールとキリンビール、サッポロビール、サントリービールの4社は、2017年9月より共同物流を開始した。長距離トラックのドライバー不足と物流部門における環境負荷を減らすのが主な目的で、釧路・根室地区(北海道の道東エリアの一部)にてスタートしている。

共同物流ではトラック1台単位以下(10t未満が目安)の荷物を対象とし、4社グループの酒類と飲料以外の荷物も含まれる。荷物はまず4社の製造と物流拠点から、JR札幌貨物ターミナル構内にある日本通運の倉庫へ。そこで荷物を配送先ごとに配分し直し、鉄道とトラックで配送する。

この共同物流では4社合計の長距離トラックの運行台数は800台ほど、CO2の年間排出量合計は従来比28%減を見込んでいる。

JR西日本とJR九州、佐川急便の協業

JR西日本とJR九州の山陽・九州新幹線に佐川急便が受託した荷物を載せる「貨客混載輸送」の取り組みが始まっている。鉄道輸送の定時性の高さを活かし、高効率の物流を実現させるのが目的だ。

佐川急便は、請け負った荷物を積み込む駅まで輸送。そこから新幹線で目的の駅まで輸送し、駅内の宅配サービスカウンターで佐川急便が引き受ける。JR九州区間では佐川急便から受け渡された荷物の新幹線車内への積み込み、新幹線車内から駅への荷下ろしはJR九州商事が担当する。

JRは新幹線車内の余剰スペースの有効活用により収入アップし、佐川急便は集配効率を高められるメリットが期待できる。実証実験は2021年から開始されており、現在は事業化を目指している段階だ。

コンビニ大手3社の共同配送

2022年2月現在、日本国内にあるコンビニエンスストアは約5万8,000店。全国の至る所にあるコンビニに商品を安定供給するための仕組みの構築と維持が求められる。

2021年度には東京都内においてセブン-イレブンとファミリーマート、ローソンのコンビニ大手3社による共同配送の実証実験を実施。2022年2月には店舗密度の低い地方での実証実験を行った。

2022年の実証実験では「コンビニ配送センター間での物流共同化」と「買い物困難地域への配送の共同化」を実施。

「コンビニ配送センター間での物流共同化」は、従来の自社センター間だけではなく、他社を含めて横断的に商品の横持ち配送を行うものだ。「買い物困難地域への配送の共同化」はセブン-イレブンとローソンの共同で店舗配送を行う。共同配送により運行トラック数とCO2削減に加え、フードマイレージの削減と買い物困難者への対策も実現させたい考えだ。

ヤマト運輸と佐川急便との共同配送

ヤマト運輸と佐川急便との共同配送は、2020年4月より開始されている。長野県の一部地域、松本市安曇上高地などの環境配慮の先進地域で実施されたのは、共同配送がCO2を削減し、環境負荷軽減に貢献できると期待されてのことだ。

佐川急便は請け負った荷物を対象地域にあるヤマト運輸の配送センターに引き渡す。そしてヤマト運輸は自社と佐川急便との荷物を集約して配達する。集荷はその逆でヤマト運輸が回収して自社の配送センターに集約、佐川急便はヤマト運輸の配送センターへ出向いて自社で請け負った荷物を引き取る。

ヤマト運輸は取り扱い荷物の増加による生産性向上、佐川急便は集配業務効率化と働き方改革の実現をそれぞれメリットに挙げている。

フィジカルインターネットでの物流業界の変革に期待

日本でもフィジカルインターネットが進んでいけば、物流業界の多くの問題を解決できる。物流業界の変革と飛躍が期待できるのに加え、別業界からの物流分野への参入や新ビジネスの立ち上げなどの動きもあるかもしれない。

全国でのフィジカルインターネットの本格的な取り組みはまだ先になりそうだが、これからの動きに注目しよう。

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