全ては「生きる糧を分かち合う」ために サミット服部哲也社長

2024.12.23

上期減益も、特段心配せず、「総買上点数は増えている」

 人口が集中する首都圏に123店、東京都だけでも90店を展開するサミットは、レイバースケジューリングプログラム(L.S.P)に代表されるようにもともと高いマネジメントレベルの店舗運営を実践する企業として知られていた。2017年からは「サミットが日本のスーパーマーケット(SM)を楽しくする」という事業ビジョンを掲げ、従業員の自律的な取り組みを尊重する運営に転換するなど組織運営を進化させてきた。現在、SM業界は原料、経費が高騰する一方で節約志向が指摘されるなど舵取りが難しい状況が続く。服部哲也(はっとり・てつや)社長はサミットの現在をどう捉え、未来をどう描く。

 20年からの新型コロナウイルスによるパンデミックは、SMの業績を大幅に押し上げた。その影響はしばらく続いたが、次第にその反動が訪れることになった。

 ただし、21年からは食品業界には押し寄せた値上げの波による売上押上げ効果は大きく、結果としてSM業界の業績は新型コロナウイルスの反動を打ち消すような形で、その後もおおむね好調に推移した。

 そして24年、その状況は変わりつつあるように見える。値上げの背景ともいえる原料や人件費などさまざまな経費の増加圧力は次第に影響力を高め、特に利益面を直撃している。サミットも24年度上期決算は前期比4.8%の増収に対し、20%を超える減益だった。しかし、服部社長は「特段心配していない」という。

 「10月が少し厳しかったですが、11月にはまた戻ってきていますし、昨年に創業60周年のキャンペーンなどもあった中でも(前年比で)手応えがしっかりあるので、特段心配していません。

 財布のひもが締まってきているということで、『値段を安くしないといけない』『こういう時期こそ安売りだ』のような話が出てきていますが、サミットはそんなに(価格が)安いお店ではないと思うし、極端に安くもしていません。そういう意識でやっています。

 日本の消費者は、そんな単純な話では捉えられません。景気や賃上げ、物価高騰があるとはいえ、その都度スイッチを入れたり切ったりするように買物をやめるとか、増やすとかではありません。

 生活が多様化している中で、みんなと同じ物は買わないかもしれないけど、それぞれに必要な物はちゃんとお金を出して買われるという感じがします。自分に合った物をきちんと買って消費していく感じになっているので、それを捉えた対応をちゃんとやっていれば、過度に心配することはないんだろうなと」

 実際、ここに来て小売企業によるプライベートブランド(PB)商品の値下げが相次いでいる。値上げと合わせる形で高まってきた各企業の売上だが、さすがにその伸びも鈍化傾向が見られるようになってきた。また、消費者には節約志向の高まりも見受けられるような状況にある。

 値上げによって1品単価は上がるものの、それに連動する形で買上点数は減少し、また、客数も厳しくなってくる。各社の値下げはもちろん、「家計応援」の意味合いもあるが、同時にそうした状況に対する危機感の表れともいえる。

 「サミットは『総買上点数』で捉えるようにしていますが、実際にこれは上がっています。1回当たりの買上点数は来店頻度、あるいは客数との関係性で上がったり下がったりするので、サミットではトータルで買上点数がどうなっているかを重視して、総買上点数で見ています。1回当たりの買上点数が減っているとしても、来店頻度が増えればトータルの数は増えるからです。

 総買上点数は既存店ベースでも上回っています。当然、インフレというか、いろいろな値上げがあるから1点単価は上がるので、結果的に客単価全体は上がっていくことになります」

 ここで注意しておきたいのは、「客数」という数値については、「お客の頭数」という意味と、「1人のお客の来店頻度」の2つの側面があることだ。ちなみに、サミットの24年度上期の既存店ベースの客数増減率はプラス2.1%。同売上高はプラス3.9%、同客単価はプラス1.7%だった。

 客数は実に2.1%伸びているが、サミットの場合、その内訳をどう見ているのか。

 「来店頻度が増えている感じがします。地方と都市部ではSMでの買い方が違います。地方のSMの場合、『今日行く店と明日行く店が違う』いった買い回り方ですが、都市部の場合は『今日の中で必要なタイミングで何店行くか』というような感じと捉えています。だから、その時の優先順位がちょっと変わっただけで客数自体が増えたりします。この優先順位が上がっていることが、サミットの客数がずっと増えている原因だと思っています。

 他社では客数が減る一方で(1品)単価が上がって、トータルではプラスになっているという話をよく聞きますが、その間もサミットはずっと(既存店)客数は前年を超えています。では、それが売価(の低さ)によるものかというと、そういう話では全然ないと思います」

 ただ、既存店ベースの客数は、23年度はプラス3.7%、同売上高はプラス6.6%、同客単価はプラス2.8%という高い伸び率だった。伸び率自体は鈍化していることは確かだろう。

 「一時期(既存店売上高前年比が)104%、105%となっていたのが、103%程度になっていることを『鈍化』と言うのであれば鈍化なのでしょう。

 ただ、既存店の前年比の推移がどうなっているかを並べて見てみると、やはりコロナで20年がすごく上がりましたが、その後の21年、22年の既存店前年比も加えた形で、19年度比で23年度の数値を見てみると、107%、108%といった水準になっています。(24年度)はそれに対して103%、104%ぐらいになっているので、決して悪くはない。

 19年度以前の月別の数値を見てみると、101%、102%ぐらいだったことを踏まえると、コロナ前と比べると明らかに既存店ベースの伸びは高くなっています。多分、これはどの企業もそうだと思いますが、やはりSM産業にとっては、コロナが落ち着いた後も追い風にはなっているのだろうという感じがします。インフレ、値上げが来て単価が上がっていることもあります」

原料高に対応するために、生鮮の仕入改革を目指したが…

 確かにトップラインの売上については追い風の状況かもしれないが、一方で粗利率に対しては、状況がアゲンストであることは間違いない。前述のように原料や原価が上がっていく中、それに伴ってどこまでも売価を上げ続けることは難しい。特に原料を加工して商品化する総菜などは原料や売価の調整について悩ましい局面が続く。

 実際、サミットの24年度上期の売上総利益率(粗利率)は微減の0.2%ポイント低下という状況だった。ただし、服部社長によると、これは原料高の直接の影響というよりは、それに対応するためにこの間、打った施策がうまくいかなかった結果でもあるという。

 「(粗利率を)上げようと思って取り組んだことがうまくいかなかったということです。

 特に生鮮・総菜・ベーカリーは、お取引先に協力を得るといった加工食品のような、条件交渉だけではない要素があり、特に仕入れのやり方を変えたり、物流効率を高めたりといったことが求められるなど課題が多い。生鮮物だと市場を経由するのか、直接買うのかなど、仕組みや方法を変えていかないと、根本的な粗利改善はできない一面もあると思います。

 すぐに結果が出るかといえば、今回はそうではなかった。ある程度予測はしていましたが、それでだいぶ上期は苦しんだということです。

 それでも試行錯誤をして、精度を上げていったりとか、やり方がなじみ出したりすることで、変えようと思ってチャレンジした部門の方が、結果はちゃんと出始めています。一方で見直しや対応が遅い部門はなかなか改善につながっていない。

 やはり、原料が上がったからといって単純に値上げをすればいいという話ではないと思っています。特に総菜やベーカリーは中身や仕様を変えていって、お客さまに『この値段だったらこの価値』と思ってもらえるような商品作りに変えていかないといけない。実際、そのようにやっているものは数字もいいし、変に価格を据え置こうとしたものはあまり良くなっていません」

 生鮮の仕入れの方向性は、基本的には生産者との直接取引に近づけていくのか。

 「必ずしも『直』というわけではないです。ただ、青果や精肉は何十年もずっと同じ仕入れの仕組み、チャネルの使い方であったので、それを現代版にもう1回、やり直そうとしています。いままでずっと手を付けなかったところをやったので、やはりうまくいかなかったときのハレーションは大きかったという感じがします。

 リードタイムを変えたり、値決めの仕方を変えたりといったことに取り組んでいます。大変ですが、旧来のやり方をしていても、このままでは続かないのは自分たちでも分かっていましたが、なかなかそれを変える踏ん切りが付かなかったものを、『変えよう』ということでやっています。大変ではあるけれども、いまは結果が出始めていますし、結果が出始めると担当自体も楽しくなってくるものです」

 その点では、痛みを伴いながらも改革に踏み切った部門で成果が出ていることは良い材料といえるだろう。今後の粗利率の改善も見込める。むしろ、服部社長の課題感は別のところにあるようだ。

 「『大総菜プロジェクト』という名称で、青果の『フレッシュサラダ&カットフルーツ』、鮮魚の『焼魚・煮魚』、精肉の『グリルキッチン』といった『生鮮の総菜化』に早くから取り組んでいます。その中では、生鮮3部門にマーチャンダイジング上、(あえて)いろいろとやってはいけない縛り(総菜部門と重複してはいけない、複雑な加工をして料理『メニュー』になってはいけないなど)を課していますが、逆にこの制約がいろいろなアイデアを生む源になっていて、売上ボリュームや粗利のボリュームが生鮮の中でかなり大きくなってきました。

 (総菜であるため)粗利が取れるので、当然、部門の粗利に貢献するのですが、それではそれ(生鮮総菜)を除いた商品の粗利がどうなっているのか。案外と粗利益率が低下していたりするので、そこをもう1回見ようとしています。(生鮮総菜を)せっかく人時、手間をかけてやっているわけだから、その分がちゃんと上乗せとなるような構造にすべきと考えるからです。

 従って、売上総利益率を『いまよりちょっと』改善ではなくて、『大きく』改善する施策をもう1回考えようと言っています。即食や半加工を除いた『実力』が、過去よりも下がっていないかと。それは先ほどの話にもあったように、いまの時代に合っていない仕組みをずっと使っていたこともあります」

 これは「総菜化」を進めた生鮮部門の宿命であるともいえる。例えば、鮮魚部門が寿司を手掛け、その構成比が上がっていく中で全体の売上も粗利も伸びたとする。しかし、それはあくまで寿司が追加された分に過ぎず、「鮮魚だけで見れば売上も粗利も下がっているのではないか」という問題意識である。

 「総菜でマスキングされてしまって、一見良さそうに見えるけれど、冷静に考えてみたら魚だけでは下がっているのではないかといったことになりかねない」

 ちなみに、サミットの場合、鮮魚で「焼魚・煮魚」を手掛けているが、寿司についてはあくまで総菜部門が手掛けている(売場は鮮魚売場に設けられることもある)。

生鮮部門を含めた形で「総菜化」を進める一方、それを除いた「生鮮」の部分の粗利こそ、注目すべき事柄と捉えている

モノの価値が上がらないと、労働の価値も上がっていかない

 粗利率を高めることは経費を吸収するためにも非常に重要なことだ。もちろん、それは価格を維持する、あるいは下げる原資にもなるが、服部社長は単純な値下げには異を唱える。特に小売業側で付加価値を付ける総菜などが主力商品になる時代、しかも値下げしても大幅な売上増が期待できない状況下、さらに昨今、モノの価値が上がるインフレ傾向が指摘される中では、なおさらそう言えるかもしれない。

 「どうしても店頭で『また値上げ』となると、『消費が厳しい』みたいな話になって、それを聞いている店舗の社員もそうした(価格対応をした方が良いのではないかという)感覚になりがちです。しかし、重要なことは、結果としてモノの値段が上がらないと、労働の価値も上がっていかないということです。

 いまは物の値段の上がり方と賃金の上がり方があまり比例していないということもあって、『厳しい』という感覚になってしまっているのでしょうが、そこがちゃんと健全になっていくのが一番いいと思います。

 だから、単に値下げをすることには疑問がある。それをやっている限り、らせん階段を上がっていくような(物価と賃金が双方上がっていく)構造にはならない」

 もちろん、消費が活性化するためには賃金が上がることが前提ではあるが、それを伴いながら着実に物価も上げていかなければ、結果として高騰する経費を吸収することは難しくなる。人件費を払う余地もどんどんなくなってしまう。だからこそ、物価、賃金双方が上がる好循環を作り出すことが重要になる。

 単純な値下げは、それを阻害する要因になりかねない。しっかりとお客、あるいは地域に向き合い、お客や地域が求めるものを提案、提供することが何より重要になる。その意味では、サミットが20年度から掲げ、22年度からは使命として定めた「生きる糧を分かち合うお店」は、まさにそれを具現化する考え方であるといえるだろう。

 「人がやらなくていいことをどうやって人以外でやるのかということについては同時並行でやっていきますが、『人でなくてはできないこと』については人にやってもらいながら、さらにその人の所得を増やしていかないといけません。

 社内でも言っていますし、世の中でもよく言われることですが、人件費を『経費』と見るか『投資』と見るか。経費として見ると『人件費』という費目になって、その中にAさん、Bさん、Cさんという顔が全く見えなくなってしまう。

 しかし、投資として見ると、Aさん、Bさん、Cさんにどういう投資をして、それがどういうパフォーマンスにつながるかという考え方になっていく。それが会社の成長にもなるし、個人の所得にも跳ね返ってくる。これがやはり一番重要だと思います。そうなると、やりがいとか、働きがいとか、楽しさなどにつながっていきます。

 どうしてもわれわれの業界は、『エッセンシャルワーカー』とか『社会インフラ』としての存在意義という側面が強調されがちです。半面、『お店で働いて、商売をやることは楽しいぞ』といった、仕事の楽しさとかおもしろさの発信はあまりされていない。例えば、『社会インフラとして価値があるから、辛い仕事もがんばれる』と言ったところで、人気業種にはなれないのではないでしょうか。

 働いて、物を売って、それが売れることは、根源的にうれしいことであるし、買ったお客さまから『良かったよ』と言われたら、もっとうれしい。そういう側面も、業界を挙げて各社のトップが発信していかないといけないと思います。ずっと『エッセンシャルワーカーだ』『社会インフラだ』と言っていても、『働きたい』と思ってもらえないのではないかと思っています」

 その点、「日本のスーパーマーケットを楽しくする」を事業ビジョンとし、目下「生きる糧を分かち合うお店」を使命として掲げながら、SMの枠を超える存在になることを目指すサミットは「人」の力を最大限生かすための取り組みに最も注力している企業といえるかもしれない。

 「ここ数年、いままでの決めごとどおりにやるのではなく、少し自分の個性や技みたいなものを生かして、はみ出してみようということでやってきました。結果、大きく変わってきましたし、まだまだ変われます。

 もちろん、決めごとは大切ですが、それをやりながら、もっと楽しんで、チャレンジする。『失敗したけれど、良くやったね』といった場面を増やしていくことが重要です。

 実際、こういう中でお店が変わってきたからこそ、客数が増えていると思います。既存店がずっと伸びているということへの手応えを感じています。品揃えがドラスティックに良くなったわけでも、値段を一気に下げたわけでもありません」

 もちろん、「はみ出し」を許容する運営を実現する前提には、そもそも決めごとをしっかりと実践する土壌があることを忘れてはならない。根本的に小売業は日々、多数の拠点で大量の物量をさばく必要がある。それを潤滑に運営するためには、チェーンストアの仕組みと、それに基づく決めごとがしっかり守られている必要があることは確かだからだ。

PBは商品部にとっての「生きる糧を分かち合う」取り組み

 サミットはこれまで加盟するオール日本スーパーマーケット協会(AJS)のグループプライベートブランド(PB)の「くらし良好」を取り扱う以外は、加工食品において自社のPBを開発することをしてこなかった。それには、現在のサミットの基礎を構築したといえる荒井伸也元社長が「餅は餅屋」の発想で、メーカーの領域に踏み込む形のPBを作ることに積極的でなかったことも影響している。

 しかしながら、昨年開催された中期経営計画「頂2025」の方針説明会でPB開発に取り組むこと発表。今年に入り、白地にコーポレートカラーである緑色をあしらったPBが登場し始めた。総菜に加え、加工食品のさまざまな分野に広がりつつあるが、基本的なコンセプトは「素材そのまま」、あるいは「添加物を減らす」といったもので、毎日食べても飽きないような、日常使いの要素が強く意識されている。

 「サミットが世の中に対して何を提供しているのかということについて、当社の使命を『生きる糧を分かち合うお店』と定義付けてから、いろいろなことを『生きる糧を分かち合う』ということにつなげていこうとしています。

 サミットのやっている活動が『生きる糧を分かち合う』ことにつながっていけば、世の中にそれを提供することで、われわれはそれゆえに存在させてもらっているという、そのこと自体の価値が高まっていくと思っているので、それを続けています。

 その中で、商品部としても、『商品として生きる糧を分かち合える』ような商品を作りたいという思いになってきました。それをやろうとなったとき、いわゆるナショナルブランド(NB)の廉価版のPBを作るのとは違ったおもしろさがあったようです。例えば、なるべく素材の味を生かす、あるいはどのように添加物を抜いていくのかといったことを考えながら開発しています。

 商品を買ったお客さまから『この商品、本当においしい』とか、『添加物が苦手なので、作ってくれてありがとう』といったことを言ってもらえること。これはまさに『生きる糧を分かち合う』につながっていくことだと思います」

 実際、売場では大量陳列されているため、白を基調に緑色をあしらったパッケージがずいぶんと目立つようになってきた。

 「パッケージについては、どこかのタイミングで若干手直しをすることはあるかもしれません。ただ、そうは言っても白地に(コーポレートカラーの)緑色はとても目立ちますね。だから基本を守りながらブランディングをしていって、その中でどう見せていくのかを考えていきます。

 店舗デザインも含め、いろいろやろうとしています。サミットの場合、店舗デザインは店ごとに若干変わっていたりする。これからは、お客さまが店に入ったとき、『ここ、サミットだね』と分かるような、強く認識してもらえるような店づくりをしていきたいと考えています。この取り組みでも『生きる糧を分かち合う』といったことを内装やデザインで表現できるようになりたい。

 『くらし良好』については低価格ゾーンの商品として活用します。こちらも、もっと開発スピードを上げてもらってしっかり低価格ゾーンを担ってもらいます」

 「生きる糧を分かち合うお店」という言葉は一見、分かりやすいようで、実際には具体的に何をしたら良いのかは各人の考えに委ねられる部分が大きい上、「売上」に結び付く要素からも距離があるように思える。極端に言えば、「何もしなくても良いのではないか」という発想になってしまってもおかしくはない。

 しかしながらサミットの場合、使命として定めてから年数も経つ中、実際には各店がさまざまな取り組みを重ね、数多くの事例が誕生している。それはまさに「店側が自発的にアイデアを出し、実際に取り組んでいる」ことを示している。なぜ、サミットの店長たちは競うようにさまざまなこと取り組むのだろうか。

 「好事例を(本部の掲示スペース)に貼っているのですが、1階がいっぱいになり、いまは5階にも貼っているような状況です。店長は全員、やれば絶対に自分の店の数字につながると思っていますね。

 外部の方などからは、『(売上に関係なさそうな取り組みもあることから)やっても意味がないのでは』といった声も聞いたりはしますが、(前述の既存店売上高前年比の推移からも)このことがお店の絶対的な魅力や来店動機につながっているということを示していると思います。客数が相変わらず止まらずに伸び続けているわけですから。

 『お店が主体的に考えて、好きなようにやってみる』ということで実施し、しかも、事例は共有するけれど、好事例だからといって『(強制的に)他店でもやるように』とは絶対に言わないようにしています。別に他店はやらなくてもいいわけです。やっていなくても、『どうしてやっていないのか』などと言いません。

 それなのに次から次へと取り組みが出てくる。おそらく、みんな楽しいんじゃないですかね。結果的に働いている人たちの『生きる糧』にもなっているのかなという感じです」

本部の掲示スペースには「生きる糧の種」(各店の事例)が多数掲示されている。その数は増え続け、1階だけでは足りなくなり、現在では5階にも貼られるようになっている

 こうした取り組みは、同社が目指す「SMの枠を超える存在」ともつながるものだ。

 「(『生きる糧を分かち合うお店』になるための取り組みを)『やって意味があるのか』と思われる方が多いという現実はあります。基本、客数などに結びつかなかったら徒労に終わる取り組みですからね。そうなってくるとあまり真似もされないでしょうし。

 一部のイベントや好事例を他社が取り入れられているのを見かけますが、根本的な考え方の軸にしたり、全部をビジョンや使命につなげていこうという話にはなっていないのではないでしょうか。

 模倣困難性というのは、それをやるのが難しいということもありますが、一番は、『それをやって何の意味があるのか』と思ってもらえる方が、実は模倣困難性が高い。

 この間、ある店のモニターさんに言われたのですが、その方の小学生ぐらいの娘さんが、サミットに行くときだけ『いっしょに行く』と言うそうです。他の店は『行ってらっしゃい』と言われると。『うちの娘はサミットが大好きなんです』ということでした。それも、『生きる糧を分かち合っている』ことになると思います。そして、その娘さんが楽しそうにしていることは社員にとっての『生きる糧』になるということですね

 そういう世界観がいいなと思います。『安いから』とか、『あの店と比べてこの店はこうだから』というのではなく、『私はあの店が好きだし、うちの娘も好きだから行く』と言ってもらえるような」

 この親子にとって、サミットはもはや「SM」ではなく、それを超えた「サミット」という存在になっている。これは何か大きな取り組みをした成果ではなく、日々の積み重ねの結果であろうし、一朝一夕にできることでもないだろう。

 もちろん、業績は重要だが、より重要なことはその店がお客に、地域に何を提供できているかということであり、それは決して商品だけに限られるものではないはずだ。

価格や品揃えといった目に見えるものではない要素こそ、差別化につながると同時に模倣が困難な要素であるとする

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