新フォーマットは追加ではない、企業自体を変えていく マミーマート岩崎裕文社長
2025.01.26
2025.01.21

コンベンショナルなSMでは生き残れない
埼玉県を地盤に首都圏に80店のスーパーマーケット(SM)を展開するマミーマートは、減益圧力が高まる中にあって2024年9月期決算でも増収増益を達成。営業収益、経常利益は過去最高と好調を維持している。ドライバーとなっているのが、数年かけて磨き上げてきた「生鮮市場TOP!」と「マミープラス」という2つの新フォーマットだ。
積極的に既存「マミーマート」バナーの店からの転換を進める他、新規出店も開始し、全体に占める比率ももうすぐ半数に届きそうな勢いとなっている。まさに「転換期」にあるともいえる同社の現在と未来について、岩崎裕文(いわさき・ひろふみ)社長に聞く。
新型コロナウイルスによるパンデミックの際に売上を大きく伸ばしたSM業界だが、昨今、原料高、経費高による減益圧力に苦しめられ、増収ながら減益を喫する企業が続出している。そうした中、マミーマートは、連結ベースの営業収益は10.8%増の1607億4100万円、営業利益は9%増の64億3400万円、経常利益は8.9%増の69億5400万円となった。売上比の営業利益率は4.1%、同経常利益率は4.4%に上る。
「改装をしたことがうまく功を奏したということと、既存店の伸び(前期比)が、(その期に改装した店を除く純既存店ベースで)約107%だったことが大きなポイントだと思います(改装した店を含む全体では既存店売上高前期比111.1%)。
その上で1人当たりの売上高、粗利などの生産性数字が伸びています。労働生産性(1人当たりの粗利)も伸びましたが、これは粗利率を上げたというよりは、労働時間をLSP(レイバースケジューリングプログラム)などでコントロールしたことが一番のポイントだと思っています。
(SMの売上を押し上げている)値上げが続いていますが、最終的には食品を買うのに一番安いフォーマットだから、コンビニや外食よりも『SMで』ということだと思います。節約指向はずっと高いですし、コロナ禍でも高かったです。分かりやすく言えば、やはり可処分所得が上がっていないということで、生活防衛になります。例えば、牛肉の売上より、豚鶏の売上が上がる状況がずっと続いています。
だから、(消費が旺盛で)『SMが良い』というよりは、コンビニしかり、外食しかり、それらがあまり良くなくて、SMが良いというのはそういうことではないかなとみています。いまのところ、コロナ禍で(売上が大きく)伸びた分が若干減ったりはしていますが、コロナ禍前よりは売上に関しては伸びています。
改装も含めてですから何とも言えない部分もありますが、実は過去5年くらいの間に、年商が約1000億円から約1600億円になった一方で、店舗数は2店舗のみの純増です。1店舗当たりの売上が増えた形になっています。
結局、利益が伸びたのもこれがポイントだと思います。販売管理費があまり変わらない中、売上が大きく伸びたということです」
24年9月期の決算説明会では、既存店を2つの新フォーマットに改装することで、2フォーマットとも、平均して改装2年目の段階で、改装前の売上の2倍を上回るとの言及もあった。
「(新フォーマットへの改装を)何年間か続けている中で、全てが2倍というわけではないですが、平均するとそのくらいの数字が上がるという実績が出ています。これはただの改装ではなくて、業態変更をして、品揃えを変えて、粗利率の設定も変えてというやり方をしていますので、そういったことも起こり得るかなと。要は『違う店を新しく出店した』ということです。
(新フォーマットが)2年目、3年目も伸びているのはそのためだと思います。通常の改装は、1年目は伸びますが、2年目、3年目までつながらないことが多い。(伸びを続けるのは)お客さまから見たら、『全く新しい店』という見方になるからだと思います」
大きな特徴として、同社の2つの新フォーマットが共通して「ディスカウント」、および「エブリデーロープライス(EDLP、毎日低価格)」を志向していることが挙げられる。特に生鮮市場TOP!は「圧倒的地域No.1」戦略ということで、生鮮食品を強化したフォーマットとなっている。
今回、新フォーマットの開発に際して、ディスカウント、EDLPの方向性を選択したきっかけはどのようなものだったのか。
「既存のコンベンショナル(従来型の、伝統的)な、普通のSMのままでは生き残れないと感じたというのが一番のポイントです。実績もそうなっていましたし、既存店(売上高)を取るのがなかなか厳しくて、一方でコストがどんどん上がってきています。
埼玉県は強いSMがいっぱいありますから、そういった店と比べるとうち(既存のマミーマート)が弱かったということでしょう。それで既存店も取れなくなってきていた。その辺の危機感があったことが一番のポイントです。
まずは『生鮮市場TOP!』の展開を2019年から始め、既存店の改装や居抜きによる出店を数年間続け、その後、『マミープラス』を2022年から始めました。やはり生鮮市場TOP!だけだと、出せる場所が限られるということがありましたし、自分たちの持っている既存店でも、生鮮市場TOP!の改装に向かない店もありました。
それで、生鮮市場TOP!が出せないところでもできそうなフォーマットとして、マミープラスをすることになりました。一方で、(東京)都内のように狭い面積しか取れない場所でも出店できる方法としても、マミープラスのやり方はあるだろうと考えました。バックルームはあまり使わず、アウトパックを中心にして、EDLPを展開していくやり方ですね」
実は生鮮市場TOP!については、19年から展開しているものは「新生・生鮮市場TOP!」とも呼べるもので、同社では以前から同名のフォーマットを展開してきた。1号店は1996年オープンの増尾台店(千葉県柏市)と歴史がある。
「もともと『生鮮市場TOP』という名前で展開していましたが、旧来型の場合、鮮魚と精肉についてテナントを入れていました。評判も良かったのですが、その代わり、(鮮魚、精肉を)テナントで運営しているため出店の自由度が少ない。テナント次第になってしまうわけです。
『これを自分たちで100%できたら強い』という気持ちはあったものの、人員体制などを含めて既存店とは全く変わってしまうので、なかなかやり切れませんでした。それで今回(19年から)、自前での運営に取り組んだということですね。
生鮮市場TOP!のコンセプトは『料理好きが週に1度は通いたくなるお店』です。生鮮強化型、しかもどちらかといえば生鮮の原体を強化して、例えばトマトの箱売り、玉ネギの箱売りといったように、量を多く買ってもらった方がさらに安くなる。料理を知っている人だったらそれでも使いこなせるといったコンセプトの下に造ったお店です。一物二価、一物三価といわれるような、要は量を多く買ってもらうほどお得になる価格設定をしています。
ただ、自ずとある程度大きい量目が中心になる。小さい量目をあまり売っていないものですから、ニーズに合わないお客さまもある程度いらっしゃると思います。そのため、広域商圏から来てもらわなければいけません。
一方で、マミープラスは、量目については普通、逆に言えば大パックを売らないことで、毎日、買物に来てもらうことを目指しています。駐車場がなくても、足元にお客さまがいらっしゃれば自転車と徒歩で来てもらえるだろうと。
言ってみれば、2つは真逆ですね。この2つを展開することによって、いろいろなところに出店できるという思いが私たちにはありました。もしくは、同一商圏ではあっても、2フォーマットが成り立つことも可能ということを考えながらやってきました」
同じディスカウント、EDLPを志向しながらも、広域商圏と小商圏という対象的な商圏設定を持つ2つのフォーマット。生鮮市場TOP!は生鮮を徹底強化する一方、マミープラスはどちらかというと生鮮はディスカウントしつつも壁回りに限定的な品揃えにとどめ、内側のグロサリー、日配を売り込む戦略を採る。
特に生鮮市場TOP!では、生鮮を強化しつつ、例えば精肉ではラム肉や味付け肉など特定分野を徹底的に強化するなど、品揃えにめりはりを付けていることが特徴となる。
「生鮮については青果も鮮魚も精肉も、全体的にアイテムはがらっと変えていますが、特定のカテゴリーや単品については、『圧倒的地域No.1』戦略を採っています。
その地域にあるお店の中で、例えば、『ラム肉を日本で一番売るお店』を目指して品揃えを充実させます。そうするとラムを買う人からしてみたら、他のお店ではなく、うちに来てくださるわけです。それと同じように、味付け肉も品揃えを増やすことで、やはりお客さまが来てくださるということになります。
SMは、1万アイテム以上持っていますが、私はこれ(地域No.1商品)の集合体になるべきだと思っているんですね。だから各カテゴリーで、お客さまが欲しいものがあったときに、それが一番売れている店が結果的に一番店になる、一番の人気店になる、ということの中で、カテゴリー開発をしていこうとしています。その1つの例がラム肉だということです」
そのカテゴリーについて、あえて「ラム」に焦点を当てたのはなぜなのか。
「例えば、牛豚鶏はどこでも扱っている商品ですが、(3畜種に続く)第4の畜種としてラムがあります。生鮮市場TOP!のコンセプトにある『料理好き』に向けて、『他ではあまり売っていないかもしれないが、うちでは豊富に売っています』という考え方です。そういう意味では必然だったかもしれません。
やはり商売をやっている限りは、地域No.1のシェアを持つような、地域にとって不可欠な店になるということが一番良いことだと思っています。だから、そうなれるようにお客さまのニーズ、ウオンツをしっかり捕まえながら、人気のあるお店を造り続けていくことが大事だと思っています。この後、人口が減っていくとなると、お客さまに選ばれ続け、少なくとも上位にいないと残れないと思います」

自分たちに優位性がある要素は、さらに磨いていく
生鮮を強化する一方、加工食品のプライベートブランド(PB)商品を始めとするオリジナル性についてはどう考えているのか。特にマミープラスにとって、日配、グロサリーは主力商品となる。
「PB商品はCGCの商品も含めてグロサリー、日配では売上高構成比で18%くらいです。ただ、グロサリー、日配で差別化するPB戦略を採っている企業は少ないと思っていまして、まだ価格面だけ(の要素が大きい)という感じに見えています。
そこに注力するよりは、(子会社の)惣菜工場で作っている惣菜の商品の方が差別化はしやすいと思っています。(ブランドの)マークは付いていませんが、いま惣菜で売っている商品の95%くらいはオリジナルです。こちらに注力していきます」
24年9月期決算(単体)の粗利率(売上総利益率)は22.2%で、これは前期比で約0.7%ポイントの低下。ただし、「額」で見れば同7.4%の増加となっている。
「新業態開発が進んでいれば、自ずとそうなってきます。率が下がっても額が増えれば良いという考えです。
それと同時に、売上が上がっているので、販売管理費率が下がっているんです。人件費率しかり、販売管理費率しかりが下がることによって、利益率が上がってくるというわけです」
率よりも額を重視し、売上を高めることで利益を確保するのはディスカウントをする際にしばしば用いられる手法だ。一方で目下、小売業界は原料高、経費高の状況で、さらに商圏人口の減少と競争激化で売上を高めることが困難になりつつある中、粗利率をどう上げていくかを課題としている企業も多い。
「原価が上がったということで、それをその分だけ売価に全部反映すると、逆に最終的な利益が落ちる可能性もあります。アメリカではここ何年間かインフレ傾向ですが、アメリカの業績を見ると、やはりこの間、伸ばしているのがアルディとかリドルといったディープディスカウントと、こちらはネット(販売)もあるので何とも言えない部分はあるものの、ウォルマートのようなディスカウント企業です。
それ以外のSMは、厳しい状況であると見ています。多分、コンベンショナルなSMが売価を上げた一方で、ディスカウントが売価についてがまんして、そこまで上げないでやっていったということの違いが大きかったのでしょう。相対的な売価差があれば(安い方にお客は流れる)。アメリカは消費が上がっていると言っていますが、やはり(お客の生活は)苦しかったと思いますよ。
見ても分かるように、SMはどんなに違いがあっても、8割以上は同じものを売っています。例えば青果で、キャベツで差別化ができるかといっても難しい。そうなれば、結局、『1円でも安い方が良い』というのがお客さまの心理ですよね。
そうではない部分で、例えば生鮮の一部、あるいは惣菜の鮮度、商品作り、味などでは若干、差別化できますが、それではそれらは売上高構成で何パーセントを占めるのか、という話です。
例えば、生鮮市場TOP!の生鮮(売上高)構成比は50%を超えていますが、それではこの50%の中の何パーセント分が、味などの『価格でないところ』でお客さまが来ているのかといえば、多分、その50%の中の10%もないと思いますよ。もちろん、品質は良くないとだめです。品質が悪くて安いのはだめですが、良い品質のものが安ければ、そこに価値が出ます」
生鮮市場TOP!は生鮮を強化する中で店内加工を多用している。今後、人件費の高まり、さらに深刻な人手不足によって店内加工が難しくなってくると見る向きは多い。
「今後、さらに店内加工の態勢を維持するのは難しくはなるでしょう。ただ、そこを差別化の武器にできたら、逆に強いのではないのかという思いはあります。
結局、どこで優位性を取るかだと思います。優位性を持っているところにお客さまが集中して来るだろうということです。
マクロの経済で見れば優位性に関係なく、SMは人口が減ればそれだけで売上も落ちるという形になりますが、一方でSMの中で見ると、その中でも2倍に伸ばす企業もあれば、逆に言うと半分の売上になってしまうところもあるでしょう。
人口が減ってくるということは、この後はシェア争いの話になります。いま埼玉県にSMが約1200店あるといわれていますが、これが今後は1200店のままでは行かないと思っています」
つまり、マミーマートとしては店内加工で優位性を作りながら、生き残っていく戦略ということになる。
「自分たちのエッジ(とがり)だと思っているものに対しては、さらに磨いていくことが重要です。ただ、反対側にあるのは機械化などの技術の向上です。例えば、アウトパックの技術が上がってくれば、そちらに転向しても良い部分も出ると思います。それで競争力を失わなければいいわけです。
片目でそちらも見ながら、こちらの目でこちらを見ていく。そこは柔軟にしておかないと、逆に盲目的に(片方を)追求してしまうことになりかねません」
人手不足が深刻化する中、店内加工など人的な側面を残しつつ、一方で店舗網を拡大していくためには現在よりも踏み込んだ取り組みをしていく必要がある。マミーマートではその一環として、店長の育成スピードを上げることを発表している。
「まだこれからですが、1つは目標を掲げることが大事だということ。あとは店長の業務の簡素化をするしかないんですね。店長はお店の『長』なので、いろいろなものが店長に行きやすい。そこの部分の業務について、本部側でやれることは本部がやるということで、区分けをどんどんしていって極力、店長でしかできないことを店長にやってもらう状態に持っていくことが必要だと思います。
企業側が成長スピードを上げたいときには、マネジメントレベルが合格ラインにある人を、どんどん育成していかなければいけない」
一方で日々、経営においてはどのような数値をモニタリングしているのか。
「労働生産性の数字はやはり常に見ています。他、単純ではありますが、売上の伸長を見ています。毎日数字が出ますし、バロメーターにはなります。
売上の伸長が止まったら利益が出なくなりますからね。ただでさえ、コストは勝手に上がってきますから、仮に売上が(前期比)100%であれば、何年かすれば利益がなくなってしまう。
これは日本全体で言えることです。相当程度コスト削減の余地がある企業でない限りは、既存店(売上)を取れなくなったら利益が出なくなります。引き続き電気代が上がる、人件費が上がる、家賃も上がってくる、そういう状態が予想されますので」
日本一広い関東平野一円が出店ターゲット、加えてM&Aも
食品業界でもじわじわネットチャネルへのシフトが進んでいるが、マミーマートの新フォーマットは「リアル店舗」重視の印象が強い。ネットスーパーに対するスタンスはどうか。
「1店舗、実験的にやっています(埼玉県上尾市の生鮮市場TOP北上尾店)。先々を含めると、ある一定以上の需要が上がれば利益が出ると思います。ただ、お客さまに来店してもらうスタイルと、自分たちが持っていくスタイルで、売価が同じだったら利益は出づらい。薄利になってしまいます。
ただ、それでもある程度やっていかないといけないということはあります。(買物に行くのが)『面倒くさいから』とか、『便利だから』ということでネットを使う需要はこの後も上がるはずです。やはり1つのチャンネルとして持っておきたいという気持ちはあります」
現状の出店地域は、51店を展開する埼玉県の他、同23店の千葉県、同3店の東京都、同2店の群馬県、同1店の栃木県という状況だ。
「関東一円に関しては、もともと視野に入れて、出店の地域も含めて探しています。それ以外の地域に関しても『チャンスがあれば』とは思っていますが、ある意味、これは縁でしかないのですが、少し離れた地域はM&A(合併、買収)のような形で一緒にできる仲間がいた方が、進めやすいだろうと思います。
遠隔地に1店舗を出すよりは、そこで何店舗か展開している人たちといっしょにやった方が、場合によっては物流センターなどもそろっていたりしますし。ご縁があれば遠方もあり得ると思います」
現状、多くの企業が特に人口が集中する1都3県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)に注目しているが、マミーマートとしてはどうか。
「栃木県は決まっているだけでもう3店舗あります。ある程度、出店ができる場所であれば、重点地域など決めずに出店していくという形です。というのも関東平野は日本一大きい平野なんですね。山を越えると文化も違ったり、気候も違ったりするので、いろいろな部分で違いが出やすいんですが、山を越えない限りは、ある意味、共通する部分があると考えています。
ただ、より細かく見ると関東でも本部のあるさいたま市ぐらいから北と南では全然、違うということはあります。牛豚の比率が変わってきますし、ワインの売上高構成比なども北と南では違います」
一方で、マミーマートとしては現状、「南」の店数は多くが23店展開する千葉県の店に限られる。東京都や神奈川県での出店についてはどう考えているのか。
「東京都はいまのところ昭島(昭島市)など東京都の西部に出ているぐらいですが(他、千葉県寄りの足立区)、『南』の商圏も当然、狙っていきます。(東京都の)都心も当然、見たいんですが、物件がないことと、すごく(不動産費が)高いということもあり、なかなか難しい。
もちろん、常にマミープラスでの出店も視野に入れながら物件を探してはいます。マミープラスではいまのところ小型店がないですが、この後、物件も出てきそうなので、出店を考えていきたいです。売場面積が取れないので、(標準売場面積を)変えるとか、場合によっては2層にするとか、そういう形の出店を考えています。
都内を見ていると小売りの(買物)競争は、それほど激しくないように思います。その環境の中で、どの店を選ぶのかという話になっている。郊外(立地)には便利な店がいっぱいあるので、郊外ではなかなか難しいフォーマットかもしれないが(制約のある店でも都市部では優勢性を持てる)。
神奈川県については、人口は多いのですが、平地が少なく出店できるところはそれほど多くないように思います。神奈川県は出店できるところが少ないので、出したらしっかり売上も取れるのではと見ています」
変わっていかない限り、良くもならない
SM業界は、有力企業による出店の勢いも強く、シェア争いの様相を呈している。まさに生き残りをかけた競争にあるといえるが、岩崎社長は業界の将来をどう見ているのか。
「小売業という業界の全体的な地位向上に努めていきたいと思っています。
そのためには、業界の中で、もっと生産性を上げていくようなスキルが上がってこなければいけない。SMの利益がなかなか上がらない理由は何かと考えると、全部、人任せであることがその要因ではないかと思えてきます。
商品開発を人任せ、物流を人任せ、といったように全部アウトソーシング。例えば、いまでもそうですが、問屋に物流を任せている企業はいっぱいあります。やはり、リスクを取ってでも、自分たちでいろいろなことをやっていくことによって、結果的に高い生産性が得られると思います。
これからは物流もそうですし、製造でき、売れるもの、(採算が)合うものに関しては自分たちでやっていきたいと思っています。例えば物流でも、一部を自社でやる、もしくは自社で設計したものを誰かに運営してもらうとかいったことも含め、自前主義でやっていきたい。
そこに合わせて人材も採用、育成する。むろん、商品開発を担う商品部などもしっかりと人材を確保していかないと改善もなかなか進まないです。
企業としては、失敗をあまり恐れないでやっていく企業だと思っていますので、結構いろいろなことにはチャレンジできる企業であると思っています。要は、変わっていかない限りは良くもならないということです。
『変わっていく』ことだとか、『チャレンジしていく』ことに関しては歓迎する企業でありたいと思っています」
その言葉どおり、まさに同社は従来型のフォーマットから新フォーマットに転換進めているという意味で、「変わっていく」真っ只中にあるといえる。長期計画では30年度のイメージとして展開店舗120店のうち110店を新フォーマットと想定するなど、同社は可能な限り展開店を新フォーマットに転換することを目指している。新フォーマットを追加してのマルチフォーマット化ではなく、新フォーマットを主力とする企業への「転換」である。
少子高齢化、人口減が進む日本では今後、高齢者の運転免許証の自主返納の動きと併せ、郊外の広域型のフォーマットが成立しづらくなるとの見方もある。それに対し、岩崎社長の方針は明確だ。
「この後、核家族化、さらに子どもをもたない家庭が増えていくことも確か。いままでSMはどちらかというと家族がいることを前提とした売場づくり、量目でした。生鮮市場TOP!も基本は1人暮らしには対応していない商品もあります。ただ、需要が変わってきたら量目を変えるなど、そちらの方向に変化すれば良いのかなという気持ちですし、一方でマミープラスをそちらの方向に活用できればとも思っています」
「将来を見据える」というよりは、「いまそこに需要がある」からそれに対応するフォーマットを展開しているわけで、需要が変わったらそのときにフォーマットを変えればいいというわけだ。
そこには、柔軟に企業変革をしながら環境に適合していくさまを見て取ることができる。まさに「変わる」ことをいとわない、マミーマートらしい競争戦略である。それは、まさに新フォーマットへの転換を進めるいまの同社の姿と重なるものだ。
