売場づくり、提案次第で魚は売れる 角上魚類ホールディングス株式会社 栁下浩伸社長

2025.03.17

年商450億円超、増収増益で好調維持

 角上魚類は、鮮魚専門店チェーンとしてユニークな存在感を放っている。日本では長らく「魚離れ」が叫ばれ、消費支出も長期的に減少傾向が続いている。他の食材に比べ食べる際に手間がかかることも要因の1つであろう。調達面では世界的なインフレ傾向、円安など逆風が吹くなど、ますます魚を食べるための環境は悪化している。人件費がかかる一方でロスが出やすいなど、販売における難易度が高く、赤字を避けたい企業には売場を縮小するところも多い。

 一方で、「実は魚を食べたい」という声が根強いことも指摘される。「不」を取り除けば消費を盛り上げることができる可能性はある。問題は調達と運営をどうするか。だからこそ、メディアでもたびたび取り上げられると共に鮮魚1本で拡大を続ける同社の経営戦略に迫る意義は大きい。栁下浩伸(やぎした・ひろのぶ)社長に聞く。

 新潟県から関東にかけて、20店以上の鮮魚専門店を展開する角上魚類の前期、2024年3月期売上高は426億5966万円だった。今期見通しは新店の効果と併せ前期比約6%増を見込む。利益も順調で増収増益の見通しだという。

 鮮魚だけでこの年商を挙げていることに注目したい。スーパーマーケット(SM)の鮮魚部門の売上高構成比は、昨今では10%を下回るケースもめずらしくない。つまり、鮮魚の販売力は5000億円チェーンのそれに匹敵するわけだ。

 一方で食品販売をめぐる環境を見渡すと、ここのところの値上げの効果もあって売上は比較的好調に推移している一方で、原価高騰で粗利がなかなか取れず、さらに経費の高騰で利益が捻出しづらい構造になっている。

 「そうですね、やはり為替の円安の影響であったり、輸入コストであったり、給与面も上がっているので人件費面も厳しいのですが、商品部が仕入れをがんばってくれていて、おかげさまで上げ幅分ぐらいはリカバーできている部分があります。そうしたこともあって良い形で来ているのかなと思っています」

 好調な業績を残す同社の店舗フォーマットの考え方はどのようなものだろうか。

 「ロードサイドであったり、インショップであったり店の造りによって、売場面積はかなり異なりますし、取扱アイテムも全店統一というわけではないです。小さい店は小さい店なりの品揃えもありますので一概に『これ』というものはないです。

 その中で、一番強いと考えているのが、ロードサイド店の単独型で、青果、精肉と共同出店した『生鮮市場型』が一番魅力かなと思います。

 自営だけの最大は草加店になります(埼玉県草加市、2024年2月オープン、売場面積約150坪)。建坪は500坪ぐらいでテナントが同じ棟に入っています。生鮮市場型の店舗では前橋店(群馬県吉岡町、23年7月に移転オープン)が最大となります」

 店の商圏についてはどのように考えているのか。

 「10km圏から、遠いところで16kmくらいですが、人口密度の縛りなどはありません。どちらかというと道路付きの方が重要で、ここをどう読むかですね。平日と土日では人の流れも変わりますので、曜日によっても違ってきます。

 利点として自社競合はしづらいことがあります。(集客する)エリアが違う場合があるんですよ。これは人口分布だけでは測れないものです。(近い場所でも)商圏が分かれている場合があります。

 SM内(インショップのテナント)出店のお話はいっぱいあるんですが、いまはできるだけ強みを生かしたロードサイドの店を造っていきたいということを掲げていまして、できるだけロードサイドの方に移行しつつあります。

 (インショップだと)デベロッパーの営業時間に合わせて調整しなければいけないことがあります。人気店では朝早くからお客さまが並ばれますが、デベロッパーの都合で(早めの開店が)だめな場合もあります。お客さまを並ばせてしまうのが申し訳ないということもありますね」

 アイテム数や品揃えの考え方は、どのようなものか。

 「アイテム数は、単独型は大体同じで、大きさによって400~600。これは加工食品を含みますが、加工食品は魚関係の加工品しか取り扱っていません。日配品に関しては他のところ(他店)に任せているという位置付けです。本当に魚関係だけの加工品、魚関係の商材の取り扱いしかやっていません。

 テナントとして入った店でも、デベロッパーが精肉や青果を入れていることが多いです。ただ、草加店は単独に近く、同じ棟に薬局が入っています」

 鮮魚と薬局の組み合わせはめずらしい。

 「草加店もおかげさまで好調です。いま『魚離れが進んでいる』と言われていますが、お客さまも『食べ方を知らない』だけで、提案をしていくとヘルシーといった部分も含め、興味を持っていただけることが多いです」

 昨今、SMでは、鮮魚と精肉の2部門の関係において、需要を反映する形で精肉の売上高構成比が高まり、鮮魚の構成比が下がる傾向にある。一方で、競合と差別化し、地域一番の鮮魚売場をつくるという「逆張り」の方針を採り、売上もしっかり挙げている企業もある。

 その意味では、縮小均衡ではなく、しっかり売場をつくり、提案をすれば需要も喚起することができるということだろう。

 「角上魚類はもともと小さな鮮魚店から始まっています。先代で創業者の柳下浩三会長が守ってきた行動指針などを徹底的に教わってきていますし、それを守りながらやっているというのが基本になっていますね。

 角上魚類は対面販売が強い店なので、お客さまの要望に応えて調理したり、料理提案をしたりできます。『こういう風にして食べるとおいしいですよ』『こうやって食べればお子さまも魚が好きになりますよ』といった部分について、ヘルシー感覚も含めてお客さまに対する『食育』のようなものは、やはり店側として、かなりレベルの高い販売員がちゃんと接客しますので、その辺りにはかなり自信を持っています」

 昨今では多くの人を集客している繁盛店としてメディアで角上魚類を見かける機会も多い。特に年末の商売は有名だ。

 「おかげさまで、毎年毎年、年末になると『取材させてくれませんか』『テレビに出てもらえませんか』というありがたいお話があります。(報道によって)それに輪をかけてお客さまが来店されるというのが最近、本当に多くて、ありがたいと思っています。

 年末に一番の売上げるのは小平店(東京都東久留米市)ですが、(年末商戦では朝)3時オープンをめどにしていますが、年々早まって2時オープンになったりしています。駐車場が埋まってしまって、早く開けざるを得ないような状況ですね」

 アメリカでは感謝祭の翌日の早朝の暗いうちからスタートするブラックフライデー商戦のようなお客の熱気を感じる。年末商戦ではどのような購買行動が多いのだろうか。

 「特に年末になると帰省されるお客さまがいっぱいいらっしゃって、(帰省途中に寄って)早めに買物を済ませて、その足で田舎に帰られるお客さまが多いようです。12月30日、31日はマグロであったり、カニであったり、買物かごいっぱいに詰めて田舎に帰られるお客さまは本当に多いですね。小平店だけでなく、他の店もありがたいことに、年末に(角上魚類で買った)お土産を持って帰省されるお客さまが多いです。

 また、最近は田舎に行かずにこちら(首都圏)で年を越す人も増えていて、その人たちは『冷蔵庫代わり』みたいな形で使っていただいています。新年にも来店することを前提に、当日は年越し用の天ぷらだけ買っていくといったお客さまも多々見受けられます。

 年末商戦のピークは30日、31日ですが、年始の1月1日も年々増えています。周辺のSMが(年始に)休むようになったこともあって、なおさらそういった部分で、来店されるお客さまがすごく多くなっていますね」

 人手不足や集客とのバランスなどを鑑み、SMでは年始の元日、さらに三が日も休業するなど年始営業を減らす企業が増えている。その意味では、もともと多い集客を背景に戦略としては明確な差別化が図れるともいえる。まさに「ハレの日」に当てにされる店、デスティネーションストアである。

 「年始は3日まで営業して、4日はできるだけ全店で休む形にしています。テナントで入っている店には4日も営業しないといけない店が一部ありますが、会社としては、基本的に4日は休むという形ですね」

 商戦的にはやはり年末が年間最大となるのだろうか。2月の節分の恵方巻も盛り上がりを見せているが。

 「やはり年末が一番売る商戦ですね。ただ、確かに恵方巻も年々認知されていっていて、お客さまの来店頻度もすごく高くなっていますし、本当に毎年毎年、前年の売上を上回るような状態です。

 海鮮恵方巻が本当に人気になってきていて、お客さまが買いに来られるようになっています。当日は朝一にスタートして、とにかく人員をかけてリアルタイムで製造できるような形にしています。夕方などにロスや廃棄は発生させたくないので、できるだけリアルタイムでお客さまの要望に応えながら、どれくらい巻くかをコントロールしています」

 人員をかけているからこそ、商品の差別化、鮮度向上とロス対策につながっているといえる。

対面販売が同社の大きな強み。24年7月に改装した所沢店では同社最大規模となる総尺数24尺の対面売場を設けた

新潟、豊洲からの「二極」仕入れで差別化と供給安定化

 商売において、「利は元にあり」といわれる。つまり、仕入れこそ、利益につながる最も重要な要素であるということだ。多くの人を惹きつける角上魚類の仕入れの強みの源泉はどこにあるのだろうか。

 「もともとは新潟が本拠地でしたから、新潟の市場と豊洲の市場の2カ所にバイヤーが行ってお互いにコミュニケーションを取りながら仕入れています。『今日はこちらの方がこの魚が安い』といった形で情報交換をしながら、それを踏まえて新潟の方から何百ケース入れる、豊洲の方から何百ケースを入れるといった仕入れをしています。お互いにコミュニケーションを取り合いながらやっていますので、そういった部分が一番強いと感じます。

 また、一番の強みはやはり関越(自動車道)沿いに店舗があるので、新潟からも朝一に仕入れた魚がお昼ぐらいには関東圏(の店)に届きますし、豊洲は逆に朝仕入れた魚が午前中のうちにお店に届くようなシステムになっていることですね。「両張り」ができるわけです。

 豊洲から入ってきた魚は、朝、開店前に店に届くようになっていますので、それをまず1回目に並べて、お昼に追加で新潟から入ってきた魚が店に並ぶような形になっています」

 新潟と豊洲という2拠点からの仕入れが差別化と供給の安定化につながっている。

 「(他社が)『二極』で本当に仕入れをするというのはなかなか難しいということがありますし、二極にすることで、リスクヘッジができることもあります。

 一方で、だんだん市場も、入荷量が減ってきていますので バイヤーも(中央卸売)市場だけではなくて、自分たちの足で地方(卸売)市場に行って仕入れられるような段取り、地方市場と組んで商品を送るようなシステムを構築中です。

 (地方市場には)足しげく通い、市場の人とコミュニケーションを取りながら、『これくらいの魚であれば、うちで販売できるので、どんどん地方市場から豊洲なり新潟なりに入れてください』といった形で頼んでいます。それを(豊洲や新潟の魚と)ドッキングさせて、店舗側に送るようなシステムを作っています。

 『船一艘買い(船で取れた魚を全て買い取る)』もやり方としてはあるとは思いますが、これにはリスクがあって、例えば、自分たちが販売したい魚ばかりであれば良いのですが、正直、販売できない魚もあったりする。

 だからバイヤーが地方市場に行って見て、『これは店であれば絶対に売れるな』というものを買い付ける方がよいと思います。それが次の日にはもう店の方には届くので、やはり、それ(地方市場の魚)を市場の方に付けて出荷した方が、より自分たちが売りたい魚、お客さまが欲しがっている魚を仕入れられる、一番分かりやすいのかなという部分がありますね」

 やはり、市場の機能を生かし、自社の店が効果的に販売できるもの、自社の店のお客の需要に応えるものを「選択する」ことが重要だということだろう。

 「やはり、時季的においしいものとか、自信を持って売れるものでないと、なかなか仕入れの部分では厳しいものがあると感じます。われわれとしては、おいしいもの、お客さまに提供して喜ばれるものを提供していきたいわけです」

 食品小売り全体の動きでは、簡単便利の需要が高まり、加工食品や惣菜の売上が高まっているが、角上魚類ではどうだろうか。

 「(売場)前面の惣菜にしても魚漬け(漬け魚)にしても、毎年毎年150%、好評な商品だと200%近くの伸び率になっています。魚漬けは埼玉県鶴ヶ島市の「鶴ヶ島流通センター」(23年稼働)の工場で自家製商品として開発して展開していますが、おかげさまで好調です。加工センターの方でいろいろなものを切磋琢磨しながら、また商品の改廃もして、 お客さまによりおいしいものを提供できるように、いろいろ試行錯誤をしながらやっています。

 漬け魚のたれについては、まずは自家製でブレンドして見本となるたれを作り、それをいろいろなメーカーに協力してもらいながら作ってもらっています。その最初の自家製のたれについても、試行錯誤しながらいろいろなたれを試作品として作って、その中で本当においしいというものを各メーカーに依頼して調合してもらっています。だから、おいしさの部分では自信を持って販売しています。魚漬けのアイテム数は年々増えて10アイテムほどになっています。

 昨今では鮮魚でも精肉でも、「味付け商品」の需要が大きくなっている。

 「簡単に調理できて、おいしいものは、お客さまにしてみても便利だし、作りやすいということがあるのでしょうでしょうね」

 惣菜についてはどうか。

 「惣菜は各店舗で作っています。一次加工は一部、加工センターで行っていますが、例えば揚げ物では衣付けや味付けについても各店でやっています。出来たての部分などを考慮しながら店でやっていますね。

 一時、コロナの影響が大きかった時期、(市場全体として)中食が強くなったこともあって、お弁当を販売したら非常に好評でした。お客さまとしても『買って帰るだけ』ということで、家の中でぜいたくな食事をするにしても、『惣菜を買って帰る』ということがあの時期からぐっと伸びてきました」

 SM業界全体としては、新型コロナウイルスの影響が大きくなった20年は、内食需要による素材回帰の動きがみられ、惣菜売上が一時的に下がった。それとは異なる動きである。

 「角上魚類は逆に、その時期から惣菜が強くなってきました。お客さまが外で食べる機会(外食)が減ったことに加え、魚の惣菜は家で作ろうと思ってもなかなか難しいですよね。それが角上魚類に行けば惣菜がもうできているわけです。

 お客さまも商品を見て、『これを買っていって、ちょっとお酒のつまみに』とか、『ご飯のお供に』といった感じで買っていかれるお客さまが多くて、本当にあのころから右肩上がりにすーっと上がってきました」

 やはり角上魚類でも漬け魚、惣菜といった加工済みの商品の構成比は上がっているようだ。

 「魚漬けは年々成長して、干物関係などの塩干系の売上の50%ぐらいの売上高構成比を占めるようになっています。惣菜に関しては(売上高構成比は)10%以下ですが、年々伸びていて、将来的には確実に10%を超えてくると思います。これは寿司を含まない数値です。弁当は惣菜に含みますが、特に弁当は本当にコロナの時期から一気に伸びましたね。

 寿司は、一部門として位置づけています。刺身や、対面丸物などの鮮魚もそれぞれ部門立てています。寿司の売上もおかげさまで20%~25%近く伸びています。商品は毎年改廃していて、いままで作っていたものを作ればいいのではなくて、毎年毎年手を変え、品を変え、少しずつ変化させながら、よりおいしく提供できるように作っています。お客さまが飽きないようにという判断です。(売上規模的に)派手ではないですが、年々着実に伸びています。

 寿司酢の配合もバイヤーが指定して、季節によってブレンドを変えたりしていますし、白酢に加え、赤酢を使った赤シャリを始めたりしています。全てを赤シャリにしているわけではなく、赤酢に合うねたもあるので、これも計算しながら赤酢に合うねたには赤酢でハイクオリティな商品を作ったり、白酢は一般的な、リーズナブルな部分を出したりもしています。

 全てのねたが赤酢に合うわけではないので、バイヤーや専門のスーパーバイザーがしっかり計算した中で、検食したりしながら開発しています。そういったところの努力がお客さまに受け入れられていると感じています」

 弁当など米飯は「ご飯」をどうするかが1つのポイントとなる。

 「ご飯は、取引先のお米屋さんに契約農家のコメを年間で押さえてもらっています。炊いた状態で納品してもらい、弁当には白米、寿司には酢飯にしてもらったものを活用しています」

 さまざまな原材料をアッセンブルして使う惣菜は、特に原材料高の影響を大きく受ける。各企業、非常に厳しい局面が続くが、角上魚類では原材料高にはどのようなスタンスを取っているのだろうか。

 「どうしても値上げをしなければいけない部分もありますが、できるだけ値上げをしないような工夫をして、商品部のバイヤーも値上げをしないような形で、仕入れをローコストで抑えるように工夫しています。

 ただし、(品質にこだわって)単価を一気に上げるとなると、確かにそれなりに良い商品に転換はできるんでしょうが、どうしてもお客さまのご要望と折り合わない場合が多々あります。その辺りはちゃんと見た中で、お客さまのニーズに応えられるように、できるだけ商品の値段を上げないように抑えるようにしています」

 惣菜の売れ筋ナンバーワンは何だろうか。

 「タコの唐揚げが一番の売れ筋です。あとは海鮮天丼が人気ですね。家庭で、自分たちで揚げ物をするという機会が少なくなってきています。やはり、手軽に食べられるという部分で、唐揚げとか天丼が重宝されていますね」

 SM企業もベンチマークした大エビフライも、もちろん、売れ筋だという。惣菜もあくまで魚特化の姿勢は変わらない。

 ちなみに売上高構成比は、主力の鮮魚、刺身、寿司で7割弱を占め、他、冷凍が1割強、惣菜が1割弱、他、珍味が1割弱といったバランスになっている。昨今、冷凍食品を含む冷凍の商品に対する支持が高まっているが、角上魚類ではどうなっているのだろうか。

 「簡単調理品は冷凍の中でも結構人気があるのかなと感じています。一方で、商社などから購入している輸入の冷凍の商品は相場が上がって値付けが難しく、苦戦していますし、そもそも丸の冷凍魚は人気が下がってきていると思います。電子レンジで温められる冷凍の食品は若干伸びがあることが見えていますが、取扱カテゴリーとしてはどちらかというと丸の冷凍魚がメインになっています」

新潟、豊洲からの「二極」仕入れと、それを結ぶ関越自動車道沿いへの出店が商品調達面、物流面双方における強みになっていると語る

担当者は「目の前の10ケース」をどう売るかを考える

 対面での接客を含めた生魚の店内加工は角上魚類の大きな強みである一方、昨今は人手不足が進んでいる。

 「今後考えていかなければいけないのは、鶴ヶ島(流通センター)にしてもそうなんですが、加工場をフル稼働させながら各店に配給できるようなシステムを作っていかなければいけないと感じています。

 そこに人を集めればある程度、店の負担がかなり軽減できると思います。その辺りが今後やっていかなければいけない課題であると感じています。一次加工を加工センターでやって、店ではできるだけ一次加工を減らし、ある程度、味付けなどの二次、三次の部分に特化させていくような形です。

 対面売場での加工はお客さまとの接点になりますのでそれは残しますが、惣菜については丸魚からの商品化について、まず一次加工という位置付けで、加工センターで全部やってしまい、加工センターで下処理加工したものを納品するようにすれば、店の負担がかなり軽減されます。いまは惣菜の素材も全部、店で加工しているので、細かい作業が必要になっています。寿司についても、できる範囲ではやはりそういう形に変えていかないといけない。

 一方で、丸魚の鮮魚対面販売に関しては絶対に残していかなければいけないし、やっていかなければいけない。販売員の強化を含め、そこはどうしても人件費を薄めることはできないので、他の部分の(店以外での)加工比率を上げて、(その分の店での)人件費を減らすことは何とかやっていかなければいけないと考えています。一次加工を加工センターでやり、店の方では完全な仕上げ、マニュアル通りの味付けなどの部分に重きを置いてやってもらうような形になってくると思います。

 対面売場というのは角上魚類の強みでもありますし、お客さまとのコミュニケーションの場でもあります。確実に伸ばしていかないとだめな部分だと感じています。角上魚類の場合は(対面販売の)人がいなくなったら商売にならないと感じています」

 一方で、対面販売の維持を前提とすると、その分の経費を吸収するための一定の売上、つまり、客数を確保しなければならないだろう。足元商圏からの頻度の高い来店、もしくはある程度広域商圏を視野に入れた運営が必要となる。

 「角上魚類はどちらかというと、他の魚屋さんに比べても人時生産性は逆に低いのかなということはあります。ただ、それ以上に、お客さまに情報提供しながら売っていくので、できるだけお客さまの回転率(客数)とか来店頻度が高くなってもらわないと困るんですよ。

 ですから、『近所の魚屋さん』みたいな感覚で、毎日のように足しげく通ってもらうような店に全店舗をしていけたらいいなというのを感じます」

 鮮魚販売の難しさは、売り切りを前提とした売体変更などのロス対策にある。

 「そこが一番大切になってきますね。これは店長や担当者の目利きにもよるんですが、例えば10ケース入ってきた魚があって、『対面では5ケースしか売れないな』といったときに、それでは『残りの5ケースどうするの』となります。

 そのとき、『次の日に残す』ということではなく、やはり、その日のうちにいい状態で売り切った方がいいわけですね。そうすると刺身で2ケース使い、寿司で2ケース使い、惣菜で1ケース使うようにしていけば、10ケースを売り切れるわけです。

 そうするとまた明日には、いい魚が仕入れられるということになる。そういうふうにロスをできるだけ作らないようにして、おいしい魚をその日のうちに売り切っていくというやり方を作っています」

 生鮮の強いSMに、例えばオオゼキやバローグループのタチヤのような「自身で仕入れているから、売り切りもしっかりできる」というモデルがある。角上魚類の場合、あくまでバイヤーが仕入れたものを店舗が売るというチェーンストアとしての分業が前提にある。つまり、「店に届いた商品を見て、どのように売っていくかを発想する力」が問われることになる。

 「それを店長なり、担当者なりが養っています。それがさらに、『うちの店では何ケースでも売れるから何ケースでももらうよ』みたいな形に進化していきます」

さいたま市岩槻区の美園本社には、創業者である栁下浩三会長の言葉が「社心」として掲げられている。「お客様が買いたいと思うような品揃え、価格、接客に努めよ」という社訓である

コロナ禍がきっかけで若年層のお客が増えた

 各店の人材が全体としての強さを支えていることが分かる。人材が鍵となる角上魚類の商売といえるが、成長戦略、出店の方針はどのようなものだろうか。

 「今年度は(埼玉県)狭山市に出店しますし、他にも何店か出店が決まっています。ただ、対面売場を運営するためには人を育てないといけないので、どんどん店を造るのは厳しい。ですから、できるだけ人が育ってきた時点で店舗を、1店舗ずつ造っていけたらいいと思います。

 大きな店舗になれば荷下ろしから含めて、14、15人くらいは必要になってきますね。チェーンストアのようにどんどん出店できればいいんですが、『対面』がキーワードになっていますので、なかなか出店ができないかなというのが、角上魚類のスタンスですよね」

 「魚離れ」を巻き返すためのさまざまな対策を持っているといえる角上魚類だが、現在の客層はどうなっているのか。

 「コロナのときに中食がはやって、それで『ちょっとハイエンドな食べ物、いい物を食べよう』という若年層のお客さまが多かったんです。以前は高い年齢層の方が魚を食べていたイメージが、意外と若い人でも20代、30代くらいの若い人でも買いに来られるんだなということが徐々に分かってきました。

 それで、若年層ももう少しターゲットにしていこうという形で、例えば、いまはマグロの解体などイベントも多いです。やはり子どもたちに人気のあるような営業の仕方ももうちょっと勉強していかなければいけないということで、そういった部分も取り組んでいます。

 (新型コロナウイルス対策で)外食(が営業していないため)に食べに行かなかったということもあって、なおさら(角上魚類のような)専門店に集まった部分もあったのかなと思います。

 以前は年齢層が高めだったんですが、コロナを機に若くなり、相当若いお客さまが増えたなと感じています。魚漬けや惣菜が結構伸びたのは、そこにも理由があるのかなと思います」

 最近、インフレ基調が強まる半面、消費については厳しさが増しているとの調査もある。店頭では節約志向は感じられているのだろうか。

 「ありがたいことに、ご来店いただいているお客さまに、『魚を買うんだったら』『寿司を買うんだったら』『惣菜を買うんだったら』、『角上魚類に行こう』という認知がされたのかもしれません。

 そういったありがたいお客さまのおかげで、そういった部分(節約志向)は感じられないですね。『ついつい買っちゃった』と言われるお客さまが多いです。来店されて『これ(目当ての商品)だけ買う』というお客さまはあまりいないように見えます。来たら『やはり楽しいよね』という風な、『市場感覚的』な感じで来店されるお客さまがより多くなったのかなと感じています」

 日本の消費の形について語られる際、「二極化」が指摘される。しかも、それは客層が二極化しているのとは異なる、「上」と「下」の消費を同じ人が行っている、「1人の中での二極化」というような形で語られることが多い。

 コモディティの買物は節約するものの、こだわりを持つものについては結構、奮発もするといった消費の形である。いま節約志向の影響が感じられないということは、角上魚類を二極化のうちのこだわりの消費に位置付ける人が多いとみることができる。

 「魚」という販売の難易度が高い商材を、しっかり売場をつくって人員を配置して販売すること自体が差別化になるが、その結果、「魚を食べたい人」がこだわりを持って買物するために、目的来店する店になり得ているわけだ。

 言い換えれば、「魚を食べたい人」が第一想起する店である。角上魚類流の「一番店戦略」「デスティネーションストア戦略」に学ぶべき点は多い。

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