「目指すのは地域密着ライフスタイル総合(創造)企業」 平和堂 平松正嗣社長
2025.05.02
2025.04.30

地域の活性化を目指し、「小売業」を超えた存在に
滋賀県にドミナントを築く一方で関西、北陸、東海にも店舗網を広げるリージョナルチェーン・平和堂。総合小売業主体の単体ベースでは滋賀県内には81店、2府7県で全165店の多様なフォーマットを展開し、フランチャイズを含む外食や専門店などを加えた平和堂グループ全体の店舗数は約400店に上る。2024年度(2025年2月期)は単体で営業収益は増収、営業・経常利益は減益を喫したものの、連結では増収増益を達成した。滋賀県内では約4割の小売りのシェアを持つとされる同社を率いる平松正嗣(ひらまつ・まさし)社長にこれからの小売業の姿、さらに成長戦略を聞く。
平和堂が創業されたのは1957年3月1日。地元商店街の彦根市銀座街の一角に開店した「靴とカバンの店・平和堂」がその始まりだ。その後、高度経済成長の波もあって、大型ショッピングセンターから食品スーパーマーケット(SM)まで多様なフォーマットを出店、チェーンストア経営を志向しながら衣食住サービスとフルラインを取り扱う総合スーパー(GMS)を主力とする一大勢力となった。
昨今では他のGMS企業同様、なかなか大型店を出店する物件がない中、SMの出店が増えているが、一方で同社の大型店フォーマットである「アル・プラザ」の役割は依然として大きく、さらにその中身が以前と変わってきているという。それは「脱」小売業とも表現できる考え方でもある。
「最近ではあまり『平和堂は小売業である』ことを強調していません。基本的な目的は『地域の活性』になります。本業として、いままで小売業をやってきたことを否定するわけではありませんし、いまも、間違いなく当社の中核は小売事業です。
それでも、私は社内でGMS、総合スーパーという表現を使いません。『基本的に総合スーパーは斜陽』という話も出てきたりしますが、それは、店の役割が、単純に言えば『物を売り買いする』というところにとどまっているからです。高度成長時代は、地域も元気ですから、周りのことはそんなに気にせずに、それぞれの役割を果たしていました。その中で当社も基本的にお買物を中心に動いていたというのは、その通りだったと思います。
しかし現在は、いわゆる少子高齢化が進み、首都圏は別として、地方では人口減少が急速に進んでいます。平和堂は、地域社会の日々の生活動線の中にある存在です。買物は重要な要素ではありますが、地域の生活全般に目を向けることを、当社の基本的な考え方として持っています。
例えば、ホームサポートサービスや『地域共創』の取り組みなどが、当社の武器としての部分があります。また、過去、店舗を増やしてきましたが、いまは店舗をサードプレイス(家でも職場でもない第三の場所)的な役割も持つ場所、地域コミュニティの一角を担う場所として位置づけていくということもその一端です」
「地域共創の拠点」という考え方は、いつから浮かび上がってきたのだろうか。
「いま、中長期ビジョンとして『地域密着ライフスタイル総合(創造)企業』を掲げています。『ライフスタイル総合』というのは、まさに地域の生活全般に目を向けるということ。『創造』というのは地域の人たちと一緒になって、新たな価値創造も含めて地域のいろんな課題を解決し、地域と共に地域の未来を創るということです。
地域が元気になるようなことに対して、いろんな支援をしています。スポーツのスポンサーもその1つですが、スポンサーといっても単なるスポンサーではありません。例えば滋賀県米原市は陸上ホッケーの強豪地域で、小中高ではほとんど毎年全国大会に行くことが当たり前になっているほどです。ただ、陸上ホッケーはマイナーなスポーツということもあって、一部の大学には部活がありますが、高校までやっていた人の多くが県外に出ていくような状況でした。
それが、4年ほど前に日本リーグの『BlueSticks SHIGA(ブルースティックス滋賀)』というチームができて、米原を拠点に活動するようになりました。いままでのやり方であれば、スポンサーフィーを払うことにとどまりますが、いまは米原にある当社のお店の一角にコーナーを設け、選手の活躍を紹介したり、当社がデザイン、製作したグッズの販売をしたり、試合の日にはみんなでユニフォームを着て応援したりと一緒になって盛り上げています。平和堂は旅行事業もしているので、合宿に来てもらうなど『米原をホッケーの聖地にする』といった広がりを作っていくことも考えています。
もちろん、店のサイズは、150坪(コンビニの3倍くらい)から5万㎡、6万㎡(甲子園球場の1.5倍くらい)のショッピングセンターまでありますので、地域共創の考え方は同じですけれども、やれることは当然変わってきます。中・大型規模であれば、地域コミュニティの役割を担うサードプレイス的な位置づけ、小型はそこまではいかないまでも、ちょっとしたイベントをしたり、楽しい食品SMといった位置づけで、日々の中で親しんでもらえたりする、地域のコミュニケーションの場にならないと、当社の価値はないという考え方です」
30代~40代の集客目指し頻度品の価格強化
一方で、平和堂の売上のおよそ9割は小売業で、圧倒的な主力事業であることは変わらない。さらにその中でも食品の売上高構成は高まり続け、直近の2024年度の単体ベースの売上の実に80.1%を占める主力商品になっている。
「比率はそうなっています。祖業からいえば衣料品、あるいは住居関連品、化粧品などが主だったわけですけれども、いまは食品の比率が8割になっています。ただ、そういう状況はあるものの、生活に必要なアイテムである衣料品、住居関連品をやめる意志はなく、しっかりとやっていきます。
売上レベルは、確かにピークに比べたら衣料品、住居関連品は落ちてきていて、その落ちてきている部分を食品でカバーして全体の成長になっているのが事実。ただ、住居関連品の中の化粧品のように成長を続けている部門もあります。衣料品についてもやはりもう一度、一定のレベルまで上げていきたいと、さまざまな取り組みに挑戦しています」
特に昨今の食品小売業は、世界的なインフレ基調による原料高などの影響で値上げが相次ぐ。食品は必需品であることから必然的に売上は上がる一方で、仕入れ、経費などあらゆるものが高騰している。
「世の中でよく言われている部分として、この1年で基本的に『増収減益』という企業が多い中、平和堂も増収減益にはなっています(2024年度単体、当期純利益は増益)。ただ、増収のベースは当然ながら客数×客単価になりますが、平和堂の場合、食品客数は大体いま103%ぐらいと、客数が伸びています(2024年度の単体ベース食品の既存店客数103.6%)。
一方で、客単価は一昨年に比べると大きく変わっていない。3年前、2年前は商品の値上げ幅が大きく、買上点数が下がっても、客単価は大きく上がりました。しかし、昨年(2024年度)は、値上げは続いているものの、値上げ幅が小さくなり、結果的に客単価は大きく変わっていません。ただ、客数が103%ぐらいに伸びているので、結果として売上は増収となりました。
いま第5次中期計画の2年目に入っていますが、この中期計画をスタートするに当たっていろんな課題がありました。大きな課題の1つに、ご来店いただいているお客様の層の中で、30代~40代の支持が弱いということがありました。食品でみると当社の40代以下の構成比は、人口動態等との比較で言うと4.5ポイントぐらいお客様の構成が低いという分析があり、やはり改善が必要だと思いました。
それでは『なぜ、差があるのか』。いろんな理由はあると思いますが、1つは日常の買物の価格。ディスカウントスーパーや食品の品揃えを増やし、低価格で提供するドラッグ(ストア)が増えていること。また、他のスーパーも価格を意識した生鮮品の強化等、いろいろなチャレンジをされている。お客様はいろんな店で買い回りをされている中で、昔は平和堂が1番だったのかもしれないお客様も、いまは3番目ぐらいになっているとか、おそらくそういう状況が起こっています。
『平和堂はいろいろなものを置いているんだけれども、少しお高いですよね』という意見が、第5次中期計画を作る前のアンケートで出ており、そこは払しょくしなければいけない。
実際には、決して他社に見劣りしない価格を出している商品は結構ありますが、全体では『こだわり商品』も取り扱い、品数についても、どちらかというと『品揃え型』でやっているので、やはり『高い』ように見えています。
この反省を踏まえて、昨年度(2024年度)がスタートするに当たり『キーバリューアイテム(KVI)』という言い方で頻度品、例えば精肉であれば豚小間切れであるとか、ミンチであるとか、頻度高く使われるものに関しては決して負けない価格を打ち出すことにしました。
以前は、競合に対して、個店ごとに『店長厳選』として価格対応することはありましたが、会社全体の取り組みではありませんでした。そこをこの1年間、品揃えも見ながら進めてきました。結果、30代~40代を中心に、客数が上がってきました。
この客数には2つの数字があります。新しいお客様(HOP会員)が増えたかということと、同じお客様の来店頻度が上がっているかということ。この1年の取り組みの結果、既存の30~40代のお客様の来店頻度、客単価が上がっている。これは、以前は、他店に買い回られていたお客様が、平和堂での買物を増やされていると推測しています。また、新しい30~40代のお客様も増え始めていますが、これから、さまざまな発信方法を強化して、さらに新しいお客様に来ていただけるようにすることが重要となります。
既存のお客様全体の客単価も上がっています。この1年間の動きをまとめると、売上的には上がりましたが、利益的には厳しかったということになります。当然、粗利を調整するわけですが、粗利ミックスでいろいろチャレンジする中で、ミックスのバランスが悪い、あるいは値下げ・廃棄ロスがうまくコントロールできていないといったことも、まだまだありました。また、品切れにより販売のチャンスロスを起こしているといった課題もあります。
もう1つは、気候変動の中で衣料品や住居関連品の寝具などの夏物、秋物、冬物が計画どおりに売れるという状況ではなく、夏か冬か、季節が2つに集約される、といったところが関係しています。
2024年度でいえば、やはり9月ごろまではほとんど夏(の気候)でしたし、10月、11月になって少し温度が下がったとしても、まだまだ冬物という話にならなかった。やはり冬物は衣料品の中でも単価が上がり、もともと食品に比べると粗利も高く、その辺がこの1年間では課題になっています。
食品は、2024年度で既存店の前年比売上の伸びは104.3%。それに対して住居関連品は100.3%、衣料品は98.5%でした。そういう状況で粗利となると、粗利率を下げた分で売上を上げ、粗利高は確保するという方針に対して、一定の確保はしましたが、経費として上がる部分を凌駕するだけの確保にはまだ至っていないというのが、減益の原因です。もう1つ、食品では新デリカセンターがスタートし、デリカのアウト比率が高まることで、粗利率が下がった影響もあります」
規模としては多様な店舗を持つ同社だが、それぞれの店の商品構成はどのような考えに基づき、また、それをどのように配置しているのか。
「平和堂内では売場のあり方を『フォーマット』という言い方をしていますが、いま、まさに『フォーマット改革』をやっています。もともと大型店舗からスタートしていることもあり、小さな店舗をつくる時に、大型店舗の縮小版をつくってしまうということがあります。それが奏功する場合もあるんですが、やはり『それは違う』ということで、試行錯誤をしながら取り組んでいます。
また、『エリア戦略』という言葉も使っています。基本、平和堂はドミナントという形で(店舗網を)広げてきました。中核に(大型ショッピングンセンターの)『アル・プラザ』タイプがあり、その周辺に中型のGMSタイプ、さらに食品SMがあるという構造です。
全タイプが『全部』を取り扱うのではなく、それぞれの役割に即したマーチャンダイジング(MD)が必要です。もちろん、画一的な進め方ではなく、お客様のニーズ、商圏の特性も鑑み調整が必要です。
いずれにしても、何でも品揃えをすると、商品の種類が多くなり、そのために結果的に品切れを起こしたり、生産性も上がらなかったりするので、いま(店舗の)規模と商圏の状況との2つを掛け合わせて MDを整理しています。
エリア内の店舗特性を踏まえて、お客様に当社の店舗をうまく活用いただければと思っています。日常は、近くの(食品SMタイプの)フレンドマートで、週末は、品揃えも豊富で衣食住サービスのそろったアル・プラザでイベントを含めてゆっくり楽しんでいただけるようにしたいと思っています。
滋賀県は当然ですが、京阪神、それから北陸はアル・プラザが一定のところにあるので、その周辺にいかに(SMの)フレンドマートなどを出店するかという発想で基本的にやっています。例えば京阪神の北摂のエリアにはアル・プラザ高槻(大阪府高槻市)とアル・プラザ茨木(大阪府茨木市)があり、その周辺に標準サイズ(300~500坪)のフレンドマート店舗を出店しています。標準サイズのSMの出店が難しいというところには一昨年に誕生した150坪程度の小規模店舗(フレンドマートスマート)を建てるといった形で『網』を埋めていっています。
ただ、唯一違うのが東海地区で、アル・プラザは岐阜県大垣市のアル・プラザ鶴見の1店舗だけで、あとは食品SMですが、他の地域のように『フレンドマート』とは名乗らず、全て『平和堂○○店』としています。これは、新しく進出したエリアのため、社名を前面に出して認知度を上げようと考えたからです。
東海地区には、一部中型で衣食住を販売している店もありますが、東海のエリア戦略は、500~600坪タイプのSMを核にし、食品購買だけにとどまらない生活用品やサービスのテナントを数店舗配置するネイバーフッドショッピングセンター(NSC)タイプ(テナントを含めた商圏範囲、客層の幅が食品SM単独より広い)を中核にしながら、周辺に小さな店を出す。そういう形の展開を進めています」

新デリカセンターで安定供給と品揃え強化が実現
競合店との差別化となるプライベートブランド(PB)商品についてはどのように考えるのか。
「PBは2種類取り扱っています。1つは日常的に利用頻度の高い商品で、(平和堂などチェーンストア16社と生活協同組合3社が加盟する)日本流通産業(ニチリウ)が開発している『くらしモア』です。もう1つは(平和堂独自開発商品)『E-WA!』です。
まず、この2種類のPBを合わせて売上高構成比20%を目指しており、2024年度は13%ぐらいです。規模では、E-WA!は生鮮まで取り扱っていることもあり、くらしモアの1.5倍ぐらいの売上がありますが、昨年はくらしモアが107%ぐらいと高い伸びを示しています」
くらしモアが伸びているのは、お客の価格コンシャスが強まっていることの影響もあるのか。
「それもありますし、4年前にブランドをリニューアルしたこともあります。価格と価値のバランスをもう一度見直し、開発の考え方もしっかりと設定し、『作って終わり』ではなくきちんとリニューアルしていくといった商品の改廃も含めた形で取り組んだ結果、『くらしモア』の商品に対する評価が非常に上がってきています。当社内での評価が上がったことが、お客様への訴求にも影響していると思います。
そうしたこともあり、くらしモアの全体の販売はこの2、3年ぐっと上がってきています。さらにこの動きをもっと加速したいということで、2024年度の下期から、平和堂の中でエキスパートバイヤーというバイヤーを3人ほどニチリウに送り込みました。この3人は一般食品のドライ系と日配品、それから住居関連品の担当ですが、E-WA!の開発も兼務しながら、ニチリウの方に高い頻度で行き、一緒にくらしモアの開発に取り組んでいます。
全ラインアップを社内開発するとなると、それだけの人材も必要ですし、トータルのロットの問題もある。ある部分については一緒になって開発していけるニチリウは非常に重要です」
PB同様、商品で差別化を図る上で重要性が増している惣菜についても、2023年5月31日から新デリカセンターが稼働した。生鮮、惣菜についてもインフラ整備が重要な時代になっている。
「以前からデリカセンターを活用していましたが、そのセンターを新しく建て替えることで生産規模は2倍以上に増えました。
デリカ商品の最大の問題点は、お店の規模や状況によって(売場に)出せるものが違うというところです。単純な(面積の)規模だけでなく、全体として人手が足りていない、朝は人がいるが夕方はいないとかいろいろなことがあるので、安定的な供給ができない店が多く、朝の開店時に、十分な品揃えができないということも発生していました。
新デリカセンターが稼働したことで、『開店開業』(開店時にしっかり品揃えがされていること)は当然ながら、できるようになりました。また、大型店舗であっても人の配置が難しい部分がありますが、デリカセンターからの商品供給の活用により、例えば、配置を少し夕方にシフトするなど調整が可能となり、営業時間中の安定的な供給が実現しました。
加えて『品揃え』です。同じ弁当でも、新商品をどんどん出したいということがありました。『おいしいけれど、いつも同じだよね』という評価もあり、そこに新しい商品を出していく、といった『商品量』と『品揃え』の面で非常に順調にいっています」
同様に生鮮については、プロセスセンター(PC)の整備を進めてきた。
「北陸を除き、基本は滋賀県多賀町の多賀食品センターと、2019年に稼働を開始した京都府久御山町の久御山食品センター、これら2つのPCから供給しています」
精肉は他社でもPC化が進むが、「店内加工の強みを残すべき」など議論もある。PCと店内加工のバランスをどう考えるのか。
「この議論は特に牛肉に関するものですよね。もともと『豚・鶏はPCで、牛はお店で』といったことが言われていましたが、そこを脱皮できるPCを作ることができました。
確かに昔は、なかなかPCに対するお店からの信頼感も高まっていなかったのですが、いまは、そこはもう大丈夫になっています。だから大型店などの一部でインストア加工をしていますが、可能な限りセンター化を拡大していっています」
そうなると、店舗の加工人員を減らすことができる。人手不足の時代には大きなメリットになる。
「当社は基本的に、精肉部門、青果部門等、それぞれの部門に主任を配置していますが、精肉のアウトパックが増え、陳列することが主となる中、店舗の規模によっては、青果と精肉の2つの部門を兼務にする形も進めています。
全体的に採用も厳しい中で、人材の活用としてもう1つ大きかったのは、過去2年間で有人レジを一部残しながら、セルフレジ中心に切り替えたことです。それによってその分の人員を店内の他の必要な部門への配置を進めることができました」
他方、複雑な作業が多いことから長年に渡って効率の低さが指摘されてきた鮮魚については売場を縮小するという企業がある一方、逆に差別化の武器にするために徹底的に強化する企業もある。これについてはどのようなスタンスを取るのか。
「2年ほど前までの流れはどちらかというと、『鮮魚は重要だけれども、一部のお店を除いて対面(販売)をなくす』といった動きが正直、ありました。ところが、今回の中期計画を策定するためのお客様アンケートを取っていたときに、『食品スーパーを何で選びますか』という質問に対して、若い人も含め『魚売場』という答えが非常に多かったんです。
魚の鮮度がすごく良かったり、魚が人気だったりするお店は、生鮮全体として人気があるのだろうと思っていらっしゃる。一方で、魚を買われるかというと、そうでもないという結果もありました。しかし、骨取りや姿魚をお好みに合わせて調理することで、家庭で扱いやすくなり、若い世代のニーズがあることも分かってきました。やはり鮮魚は重要だということで、改めて力を入れ始めています。
鮮魚ついてはMD(品揃え)を増やすだけでなく、いかに店頭でお客様に魚屋さんのように振る舞えるかというところを重視しています。これまでも魚に精通したエキスパート社員が何人かいましたが、新店や改装の時の応援が主でした。
現在は、賑やかで生き生きとした鮮魚売場にしていくために、鮮魚売場のパートナー(パートタイマー)さんを含めた従業員を育成していこうとしています。
魚を『切る、盛り付ける』といった技術については、いままでもしっかりと教育してきましたが、それをお客様に対面でコミュニケーションを取りながら、調理や食べ方まできちんと伝えられる、総合力を持った人をもっと育てていこうと取り組んでいます。
もちろん、小型店では限界があるので、どの規模までやるのかは、エリア戦略も考えながら検討を進めています。一方で確実に旗艦店舗クラスのお店はそうなっていかなければいけない。まずは旗艦店舗がしっかりとそのような状態にあるようにすることから始めています」
食で信頼を得ながら、地域により踏み込んでいく
商品分野ごとに、SMとしての店の磨き込みがかなり進んでいる印象だ。
「『地域密着ライフスタイル総合(創造)企業』を掲げていますが、ベースとして平和堂に対する信頼がないと、目指す姿の実現は難しいと思っています。信頼という意味では平和堂のお店に来ていただいて、一番の頻度品である『食』でいかに信頼を得られるかというのが重要だということです」
一方で、人口が減少に転じた日本においては、食品だけでなく、地域を総合的に支えていくことも求められるようになっている。衣料品や住居関連品を取り扱うことも重要だし、これは「地域密着ライフスタイル総合(創造)企業」を目指すということにも重なる。
「平和堂には2021年にできた『地域共創事業部』という部署があります。先ほどブルースティックス滋賀の例を出しましたが、どんどん地域に踏み込んでいく、それをいろいろな切り口でやっていくということです。
例えば地域商材は、これまで以上に個店とのかかわりを強くしています。いままでもその地域にある商品をバイヤーが調達して店頭にならべていましたが、お店はその商品は置いている一方で、その商品を作っている人のことをそんなに知らなかったりしました。
いまは、地域共創の考えに基づき、店長はじめお店の従業員が、地元のお酒屋さん、お菓子屋さんと直接会話もする。その中で、例えばそのお店の何周年の記念商品としてオリジナルラベルなどを作ってもらったり、新規商品を導入したり、さらにそれを取り扱う店舗が広がるといったことになっています。地域商材を単に置くだけでなく、踏み込んでいくということですね。
いま、アル・プラザ武生(福井県越前市)と坂本店(滋賀県大津市)、アル・プラザ八日市(滋賀県東近江市)、アル・プラザ彦根(滋賀県彦根市)の4店で、みんなの広場、地域サロンといったスペースを設けているのですが、そこは『買物』ということではなく、『とりあえず平和堂に行こう』と思えるような場所にしています。
そこに行くと囲碁、将棋やボードゲーム、卓球、足湯、体操、セミナーといった形で、みんなでわいわいやっている。そういう地域のコミュニティの場になっていくことを目指しています。
そうすると行政も、わざわざ何かするときに『どこかに来てください』というよりも、平和堂のお店の中でやった方が良いということになります。マイナンバーカードの手続きの時が顕著でしたが、平和堂のお店の中で手続きを行った際にマイナンバーカードの取得率が上がったこともあって、いろいろな市町に喜んでいただいたりもしました。
そのような形で、地域のちょっとしたコミュニティの1つ、地域の人たちのサードプレイスになっていくというのが、平和堂の使命でもあると考えています」
地域との結び付きがかなり深まりを見せているが、取り組みにおいて現場の店長と本部とではどのように役割分担をしているのか。
「基本的には、店長、お店の従業員が主体となるわけですが、本部にある地域共創事業部の地域共創課が、行政や地域の人との取り組みの進め方、お店と行政や地域の人をつなぐ手助けをしています。
その発展形として、今年3月にアル・プラザ敦賀(福井県敦賀市)に『ふらっとぷらっと』というジム&スタジオをオープンさせました。地域サロンに自前のマシンジムとスタジオを入れたものです。
『ふらっとぷらっと』は、ちょっと買物の帰りなどに運動がてら立ち寄れる場所として設定したのですが、これが動き始めた時に敦賀市から『一緒にやりませんか』というお声もかけていただき、健康の情報発信拠点となっています。これも地域共創課のメンバーが取り組んで、お店につなげていく流れの1つの事例です。当社の地域共創の基軸の1つである『健康』については、さまざまな自社取り組み、産官学との連携取り組みを進めています」
いまの出店地域は地盤の滋賀県に関西と北陸、東海。地域との取り組みを重視する中で、出店地域拡大についてはどのような考えを持つのか。
「スーパー、ショッピングセンターという業態では、2府7県(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、福井県、石川県、富山県、岐阜県、愛知県)の外に出店するということはいまのところ考えていないです。2府7県といっても滋賀県内では4割ほどの小売りのシェアがある他、(京都府)宇治エリアは(出店の)密度が濃いですが、他のところはまだまだです。
M&A(合併、買収)については戦略の1つとして意識しています。サプライチェーンの川上(商品の生産、製造)の方もそうですし、川下(店舗)の方もそうです」
地域により入り込み、地域との共創に取り組むからこそ、現在の出店地域の深掘りを目指す。出店地域を拡大する戦略とは一線を画す「地域深掘り」とも呼べるこの戦略は、まさに現代の小売業の目指すべきひとつの方向性を示している。
