コールドチェーンとは?概要やメリット、成長見込まれる市場規模などを解説

2022.10.05

2022.03.17

商品の原材料の調達から生産、配送、販売までの一連の行程を低温かつ最適な温度を保つ物流方式を「コールドチェーン」という。

アイスクリームや冷凍食品が店頭に並んでいるのは、工場などから冷凍された状態で運ばれるから。この冷凍や冷蔵の状態を保ったまま食品などを届けることを「コールドチェーン」と呼ぶ。

すでにコールドチェーンは私たちの生活になくてはならない仕組みになっているが、今後、世界ではさらに市場の成長が予測されている。本記事では、コールドチェーンの仕組みやメリット、今後の市場規模の成長を解説していく。

コールドチェーンとは?

コールドチェーンとは?仕組みを図解

コールドチェーンとは、食品や医薬品など温度管理が必要な製品を、生産地から販売、消費されるまで適切な温度(低温、冷蔵、冷凍)状態を保ったまま流通させる仕組みを指す。

例えば、鶏肉がスーパーマーケット(SM)の棚に並ぶには、生産地からトラックで輸送され、倉庫などを経由し店舗まで運ばれる必要がある。トラックが鶏肉を常温で運ぶことしかできなかったら、鶏肉はSMに届くまでの間に腐ってしまう。生産地からトラックや倉庫など、各段階においても低温状態を保ち続けているからSMには鶏肉が並んでいる。

ちなみに生産、在庫管理、輸送、販売という流れをサプライチェーンと呼ぶが、コールドチェーンはサプライチェーンを低温のまま行っているイメージだ。コールドチェーン以外にも、「低温ロジスティクス」や「生鮮サプライチェーンマネジメント」とも呼ばれている。

先ほど鶏肉を例に挙げたが、コールドチェーンを利用して運ばれる製品にはどのようなものがあるだろうか。野菜、肉や魚などの生鮮食品、牛乳やヨーグルトなど乳製品、アイスクリーム、冷凍食品など冷蔵、冷凍の商品が思い浮かぶが、実は食品だけではない。

血液パックやワクチン、医薬品など医療現場でも低温管理が必要なケースがあり、コールドチェーンが役立っている。もはや食、医療の現場においてなくてはならない存在である。

コールドチェーンの仕組み

「生産・加工」「流通」「消費」の流れ

それでは、コールドチェーンは具体的にどのようにして低温を保っているのだろうか。食品における「生産、加工」「流通」「消費」の3段階に分けて見ていこう。

生産、加工

野菜や果物などの青果商品は「予冷」という作業が行われる。予冷とは、収穫した野菜や果物を出荷前に、急速に温度を低下させる冷却処理のこと。低温状態になった野菜や果物は、予冷対応の特別な冷蔵庫で保管される。

また、肉や魚は冷凍の作業が行われる。鮮度を保つために、急速冷凍機により、短時間で冷凍される。

流通(輸送、保管)

生産・加工段階で適切な温度になっていても、流通段階で温度が保たれなければ製品の劣化、腐敗につながってしまう。長時間の配送時間で温度管理がきちんとできるのか、倉庫を経由する場合、商品の温度に対応している倉庫か、などさまざまな点を考慮してSMなどの店舗へ配送されていく。トラックで輸送されるイメージがあるが、トラックに限らず、航空便、船便といった手段で配送されるケースもある。

消費

SMやコンビニなどで消費者が商品を購入した後、すぐに消費するとは限らないため冷蔵庫や冷凍庫で保管されるケースを想定しておく必要がある。家庭の冷蔵庫で保管しやすい状態にするため、傷みにくい加工や保存しやすいパッケージにするなど、コールドチェーンは消費されるぎりぎりの段階まで考慮されるべきものだ。

温度管理

コールドチェーンは急速冷凍機や冷凍対応のトラックなど、各段階で一定の温度を保たないといけない。そのために、「データロガー」と言われるデジタル計器で温度、湿度などを絶えず計測し、記録している 。データロガーにより決められた温度よりオーバーしていた際、輸送中のどの段階で温度が変化したのかが明確に分かる。問題が生じた際の改善や安定した温度管理につなげる必要がある。

コールドチェーンの市場規模とは?

コールドチェーンの市場規模は今後も成長が見込まれている。

海外の市場調査レポートの販売などを行うグローバルインフォメーションでは、2021年~27年の予測期間で8%のCAGR(年平均成長率)での成長が予想されると発表した。

特に20年のコールドチェーン市場では、フルーツ・野菜、乳製品と冷凍デザート、魚、肉とシーフード、ベーカリーと菓子のセグメントのうち、乳製品と冷凍デザートが市場で支配的な位置づけとなり、21年~27年の予測期間中に特に成長すると見込まれている。

また、冷蔵と冷凍の温度タイプでは、20年には冷凍セグメントが市場を支配。こちらも予測期間中の成長が見込まれている。

また、市場調査レポートプロバイダーのReport Oceanが22年1月2日に発行したレポートでは、世界のコールドチェーン市場は、20年に約2104.9億米ドルと評価され、21年~27年の予測期間で14.8%以上の成長率が予測されると発表。27年には5531億3000万米ドルの市場規模に達すると予測している。

ヨーロッパでは、生鮮食品の国内消費が継続されることにより、コールドチェーンの需要が増加。また、アジア太平洋地域では、倉庫管理システムの普及や、物流インフラ整備のための政府投資が増加したことにより、21年~27年の予測期間に最も高いCAGRを示すと予想している。

インドでは、20年9月に食品加工産業省が、中央政府から20億8000万ルピー(2800万米ドル)の援助を受けた。これにより、食品廃棄の減少や、地元の農業食品部門の輸出可能性を高めるために、「Pradhan Mantri Kisan SAMPADA Yojana(PMKSY)」の下で28の新しいコールドチェーン基盤事業を承認した。

EC(電子商取引)による生鮮食品の需要の高まりが、今後の市場を積極的にけん引していくと予想されるが、コールドチェーンは運用コストが高いこともあり、成長率に影響が出る可能性もあるとしている。

コールドチェーンのメリットとは?

今後市場の成長が予測されるコールドチェーンには、どのようなメリットがあるのだろうか。大きく3点ある。

食品廃棄を削減する

常温管理しかできない場合、商品を販売できる期間は短い。しかし生産、輸送、倉庫での保管など全ての段階において冷蔵・冷凍の温度を保つことで食品の鮮度が維持される。

また保存期間も常温管理に比べて長くなることから、販売期限も長くなり、食品廃棄になる可能性を減らすことができる。コールドチェーンは、「鮮度を保つこと」と「保存期間を長くすること」を実現し、結果的に食品ロスの削減につながる。

昨今、重要性が増しているSDGs(持続可能な開発目標)の観点でも極めて重要な位置づけを担う分野であることは間違いない。

新鮮なまま消費者の元へ

食品廃棄にも関連するが、コールドチェーンにより食品自体の鮮度を保ったまま消費者の元へ製品が届けられるようになる。例えば冷凍食品は、工場で調理された後に急速冷凍することで出来たてのおいしさを保てる。

また、鮮魚は適切な温度で管理されることで鮮度を維持できる。生産地から消費者の元に届くまでの間で劣化を防ぎ、出来たて、取れたてに近い状態を楽しめるのだ。

輸送地域が広がる

冷蔵・冷凍での温度管理ができることで、保存期間が長くなる。そのため常温管理では劣化や腐敗の心配のある遠方エリアや海外にも製品を届けられるようになる。これは食品だけでなく、医薬品をさまざまな地域に運べるようになるという側面もある。

コールドチェーンまとめ

食品や医薬品など、製品の状態を維持するコールドチェーンは、日本では当たり前のような存在になり、世界でもコールドチェーン市場の今後の成長が予測されている。

一方で、運用コストが高いことは依然として課題ではある。予冷のための冷蔵庫や急速冷凍機といった特別なものが必要になり、確かにコストがかかることが想像できる。

だが、食品廃棄を防ぐことや、輸送地域の拡大などメリットも多く、日本だけでなく世界的なコールドチェーン市場の成長が期待できるだろう。

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