ドミナント戦略とは?概要やメリット・デメリット、導入に成功した企業の事例を解説

2024.03.15

2022.03.31

小売業や飲食業などにおける出店戦略の1つに、ドミナント戦略がある。ドミナント戦略には多くのメリットがある一方、デメリットにも注意しなければいけない。

すでにドミナント戦略を成功させている企業の事例からは、自社がやるべきドミナント戦略のヒントも得られるだろう。ドミナント戦略の概要やメリット・デメリット、導入に成功した企業の事例を解説する。自社の出店や進出エリア選出などの戦略に、ぜひ役立ててほしい。

ドミナント戦略の概要や意味

ドミナント戦略の概要や意味、似た意味を持つ「ランチェスター戦略」との比較を解説する。

ドミナント戦略とは

ドミナント戦略とは特定地域への集中的な投資により、占有率や知名度において競合よりも優位に立つ戦略を指す。「支配的な、優勢な、もっとも有力な」という意味を持つ英語の形容詞「dominant」に由来する用語だ。なお、ドミナント戦略によって自社や自店舗が最も優勢に立った地域のことを、ドミナントエリアと呼ぶ。

チェーン店における店舗戦略で用いられる

ドミナント戦略は、おもにチェーン店における小売業や飲食業の実店舗の戦略として用いられている。実際に、1つのエリアの中に同じチェーンのコンビニなどが多く立ち並ぶ様子を見たことがある人も多いだろう。

「同じ店舗を狭いエリアに集中的に設置するのではなく、分散させた方が良いのではないか」と考えるかもしれない。実は狭い範囲に同社の店舗を集中させることでそのエリアを支配し、利益をはじめとした多くのメリットを得るのが、ドミナント戦略の手法となる。

ランチェスター戦略との違い

ドミナント戦略と似た性質を持つ用語に、ランチェスター戦略がある。ランチェスター戦略とは、「弱者(資金や社員数に限りのある中小企業)」が「強者(資金も社員数も豊富にある大企業)」に勝つための戦略を指す。

資金や社員数などのリソースがない中小企業でも、ある特定分野なら大企業からシェアを勝ち取れる可能性がある。市場を細分化し、ニッチな分野を開拓することで、中小企業が大企業に勝つために行うのがランチェスター戦略だ。

ドミナント戦略と比較すると、ドミナント戦略が特定地域で集中的に出店することでシェアを勝ち取る戦略であるのに対して、ランチェスター戦略は「デリバリーの速さが地域で1番のピザ販売店」「取り扱いサービスの数では他の追随を許さないコンビニ」など、地域にこだわらず特定分野でのシェアを勝ち取る戦略といえる。

ドミナント戦略のメリット

特定の地域に店舗を展開していくドミナント戦略によって利益の他、業務面でも多くのメリットが得られる。ドミナント戦略によって得られるメリットを解説する。

ブランドや企業の認知度向上

特定地域に同じ看板を持つ店舗を複数展開することで、その地域における認知度の向上につながる。立ち上げたばかりのブランドや企業の認知度や知名度は低いが、地域を限定して集中することによってエリア内での認知度向上が図れるだろう。ゆくゆくは展開エリアを拡大し、地方や全国単位でのブランドや企業の認知度向上を目指す場合の足掛かりにもなる。

認知度の向上によって顧客に信頼感や安心感も得られるため、利用機会の増加による利益向上もドミナント戦略によってもたらされる。あえて限定したエリアでのみ店舗を展開することでプレミアム感や地域性を出し、顧客の利用につなげることもできるだろう。

配送、製造拠点、販促の効率的な運用

コンビニやスーパーマーケットをはじめとした小売業などの実店舗では、店舗で販売する商品を発注し、配送拠点から出発するトラックから商品を受け取る。

1つのトラックは複数の店舗への商品や資材の配送を担当しているが、店舗間の距離が遠ければ遠いほど時間がかかり、配送の負荷が高まってしまう。ドミナント戦略により狭いエリア内に配送先が集中していれば、配送ルートも簡略化され配送も効率化される。

配送が効率化されることでトラックドライバーの人員不足の解消、配送コストの削減、食品など品質が配送までの時間に影響する商品の品質改善などのメリットが得られる。

例えば同じエリアに同じコンビニを複数出店することで、1つのトラックで複数の店舗へ短時間で配送ができる。コンビニは進化の過程で1日当たりの配送頻度を上げてきたが、ドミナント戦略を採っていれば弁当やサンドイッチ、おにぎりなどの店舗で取り扱う食品類も配送頻度を上げることもより容易になり、より鮮度の高いものを販売できるようになる。

また、配送する商品の拠点、工場やセンターなどについて、専用の施設を抱える場合、稼働率を上げる上ではこのドミナント戦略が大きな鍵を握ることになる。早期に稼働率を上げるためには、近隣に供給先としてのそれなりの店舗数が必要となるためだ。

そのため、チェーンの出店においては配送拠点、あるいは製造拠点を設置することをドミナント戦略とセットで考えるケースが多い。配送拠点や製造拠点を設置したエリアにできるだけ早期にそれなりの店舗数を出店する計画をあらかじめ立てておくのである。こうした手法は、特に新規エリアへの進出に際して採られることが多い。

なお、販促についても配送と同様で、近隣に店舗があることで、単店で行うものよりより少ない販促の投下量で効果を挙げることが可能になる。

いずれにしても、ドミナント戦略の効果は、こうした配送や製造拠点、販促について効率を上げることで、「1店当たりの費用」が減ることによって測られる。

人員や在庫を柔軟に活用できる

ドミナント戦略によって同社の店舗同士が近距離になると、人員や在庫の移動も柔軟にできる。店舗の利用客数や売上げに応じて人員を移動させて適正化したり、在庫不足の店舗へ過剰在庫をかかえる店舗から在庫を移動させたりすることも可能だ。人員や在庫を柔軟に活用することで、人員コストや在庫管理コストを減らせるメリットも得られる。

同業他社の進出を防げる

ドミナント戦略を成功させると、特定地域における同業他社の侵入を防ぎ、優位性を継続できるメリットがある。特定地域でドミナント戦略により知名度や占有率などが高まれば、そのエリアにおいて顧客の囲い込みができる。

同業他社が進出を検討する場合でも、囲い込みがされているエリアに関しては進出のハードルも高くなるためドミナント戦略の対象エリアへの進出をあきらめる可能性も高まる。

競合への対策をすることなく優位性を保てるため、競合への対策への資金や人員を割かずに済むメリットもある。

最適なエリアマーケティングの実施

小売店や飲食店などの実店舗における有効なマーケティングの手法に、エリアマーケティングがある。エリアマーケティングは、利用顧客の年齢層や性別、収入帯、人口やライフスタイルなど細分化されたデータを分析し、店舗の運営や業務に反映させる手法だ。

ドミナント戦略は限定されたエリア内に集中して店舗を展開するため、エリアマーケティングに必要なデータを収集しやすいメリットがある。マーケティングを展開するエリアの範囲も狭いため、地域性などを考慮した上で最適なエリアマーケティングを展開できるのもメリットだ。

限られた資源内での経営が可能

ドミナント戦略により、店舗同士の距離が近ければ前述のとおり配送や販促、人事、在庫管理業務が簡略化され運用コストの削減にもつながる。中小規模の企業など自社の資源が限られたものでも、資源を最大限に活用しながら経営や店舗展開ができるのも、ドミナント戦略のメリットだ。

ドミナント戦略のデメリット

ドミナント戦略はメリットが多く享受できる一方、デメリットもある。ドミナント戦略のデメリットを解説する。

既存店舗のノウハウを新規エリアに生かしにくい

特定エリアでのドミナント戦略に成功した後は、事業拡大のために新規エリアへの出店を計画することも多いだろう。ところがドミナント戦略において既存店舗の運営で培ったノウハウやデータは、新規エリアで生かしにくいデメリットがある。

ドミナント戦略による既存店舗の運営は地域性に依存した部分が多いため、全くの新規エリアで店舗を出店する場合、ノウハウやデータが活用できないことがあるためだ。新規エリアへの出店の場合、前述のランチェスター戦略へ切り替える、新規エリアのデータを早く収集するなどの対策が必要となる。

地域の環境変化によるリスクがある

ドミナント戦略では特定エリア内に集中的に出店をするため、そのエリアで市場に影響のある環境変化が起きたときに売上げが落ちるなどのリスクが発生する。例えば災害の発生、住民の他地域への流出、高齢化による人口減少により、対象エリアの顧客が減れば売上げは落ちる。

顧客や売上げが減っても、一般的に店舗の運営コストは同様には減らないため、経営面での大きなリスクとなる。ドミナント戦略は、将来的な環境変化の可能性や展望なども把握した上でターゲットエリアの選定が求められる。

自店舗同士でシェアの奪い合いが発生する

ドミナント戦略によって自店舗が集中すると、特定エリア内の顧客層を自社で奪い合うことにつながるなど、自社の店舗間で競争が発生する。自店舗同士で競争意識を持つことは良いことだが、過剰になり過ぎないための取り組みが必要だ。

ドミナント戦略に成功した企業の事例

日本国内の多くの企業でドミナント戦略が取り入れられている。ドミナント戦略に成功した企業の事例を解説する。

セブン&アイ・ホールディングス「セブン-イレブン」

小売業として国内2万店舗出店をはじめて達成した、コンビニ「セブン-イレブン」では積極的にドミナント戦略を展開している。1975年5月に国内第1号店である「豊洲店」を出店後、「江東区内から出ない」というルールの元で新規店舗を展開していったことからも、事業開始後からドミナント戦略を軸とした経営を行っていることが分かる。

コンビニでは日本最多の店舗数を誇るが、全都道府県に出店したのはファミリーマート、ローソンの3大チェーンの中で最も遅く、2019年7月に沖縄県に出店したことによって達成された。これは、同社がいかにドミナント戦略を重視しているかを示すエピソードだ。

その際も、多エリアへの進出と同様、取引先の専用工場設置と併せ当初から複数店を出店するというドミナント戦略に沿ったものとなった。

コンセプトの「近くて便利」の言葉どおり、一気に広域に店舗を展開するのではなく、地域ごと、密に店舗網を築くことで「近くに店がある」ことを重視した戦略を実践している。

ツルハホールディングス「ツルハドラッグ」「くすりの福太郎」など

ドラッグストア事業や調剤事業を展開する、ツルハホールディングスは「ツルハドラッグ」「くすりの福太郎」などのドラッグストア出店におけるドミナント戦略を展開している。1929年北海道旭川市で創業後、2022年現在では33都道府県に2000店舗以上を展開。東南アジアのタイをはじめ、海外にも20店舗を展開している。

「薬剤を基盤に、地域に根ざして良い商品、サービスをおとどけする」をコンセプトに、薬剤や介護など地域に密着した商品やサービスを提供している。ドラッグストア事業で展開している店舗は、8ブランドあるのも特徴だ。

結果的に同じエリア内で異なるブランドの店舗を展開するマルチフォーマット戦略になっていることで、異なるニーズを確保し自店舗同士での顧客の奪い合いを回避しているのもツルハホールディングスのドミナント戦略の特徴だ。

アパグループ「アパホテル」

21年現在、日本全国に671ホテル、10万3917室を展開するアパグループの「アパホテル」は、積極的にドミナント戦略を導入している。アパホテルは、ドミナント戦略のターゲットを都市部に絞っている特徴がある。郊外エリアは「地方のホテルが持つ既存の顧客を奪わない」という理由からターゲットとしていない。

都市部のビジネスホテルのニーズとして挙がるのが、利便性だ。アパホテルでは同じエリアで「駅の出口別」「地下鉄の駅に1つずつ」など、立地条件のニーズごとに同エリアでホテルを複数設置している。

さらに駅などのニーズが高まる場所には直営店、少し離れた場所はフランチャイズ、さらに離れた場所には提携店と異なる経営形態のホテルを集中させているのも特徴だ。ターゲットとしたエリア周辺では、アパホテルの会員の利用を取りこぼさないメリットも得ている。

編集長竹下の視点

ドミナント戦略は、チェーンストア経営における基本的な考え方であるといえる。複数店舗を出店する際に、ある一定の地域をターゲットに集中的に出店することで、物流、販促などについて1店当たりの経費を削減する一方、その地域のシェアを高めたり、認知度を向上させたりといったメリットを享受することができる。

特に小商圏をターゲットとするフォーマットを展開する企業にとっては、小商圏ゆえに近隣への出店がしやすいためドミナントを形成しやすい。密度の濃い店舗網を築けば他社の進出を抑えることができ、その地域でのシェアを確固たるものにできる可能性も高まる。逆に大商圏型の店舗の場合、ドミナントの考え方はなかなか採れないともいえる。

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