ERPとは?意味や基幹システムとの違い、導入メリットなどを分かりやすく解説
2022.10.05
2022.03.31

業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)などを実現するため、昨今注目を集めているERP。オンプレミス型だけでなく、クラウド型のERPも普及し始めており、大手企業に限らず中小企業も導入が進んでいる。
本記事では、企業の競争力強化に有効なERPの概要から、導入メリット・デメリットを解説していく。
目次
ERPとは?
ERPとは、「Enterprise Resource Planning」の略で、日本語では「企業資源計画」を意味する。企業の根幹を成すヒト、モノ、カネ、情報といった資源を一元管理し、適切にリソース配分して有効活用することを指す。本来、ERPは概念的な用語であったが、企業のリソース管理を包括的に行えるソフトウエアも、ERPと呼ばれるようになっている。
ERPが普及した背景
ERPが日本で普及し始めたのは2000年初頭。グローバル化を進める企業にとって、競争優位性を確立するため、スピーディな戦略立て、展開が必須であった。
しかし、拠点、部門ごとにデータが独立管理されており、海外拠点との情報共有は大きな課題になっていた。そこで、ERPの経営資源を一元管理する概念に着目され、日本でもシステムが導入されるようになった。
また、昨今では経済産業省が推進するDX実現のため、ERPが注目されている。DXとは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)など最新のデジタル技術を活用することで、ビジネスや組織を変革して競争力の維持、向上を図る施策である。全社横断的にデータを活用し、競争力を強化するためにも、ERPの概念は重要といえるだろう。
ERPと基幹システムの違い

企業の核となる業務に関して、コンピュータで管理するシステムを基幹システムと呼び、今や欠けてはならないソリューションとなっている。ERPシステムについても、企業の根幹を成す経営資源を管理するシステムのため、混同されやすいソリューションであるが、厳密には分けて捉えるのが正しい。
まず、基幹システムは生産管理、販売管理、在庫管理など、各部門の特定業務の効率化を図るべく、導入されるシステムである。一方、ERPシステムは局所的にデータを管理するのではなく、基幹システムなどの業務データを一元化し、経営戦略に役立てていく。
つまり、対象となるシステムは概ね同じだが、導入目的がERPと基幹システムで大きく異なる。独立的ではなく、統合的に業務データを管理することから、ERPは統合基幹業務システムと言われることもある。
ERPと業務システムの違い
基幹システムは、広義なら業務システムの一部と考えられるが、狭義に捉えて区別するのであれば、基幹システム以外が業務システムといえる。具体的には、文書管理システム、スケジュール管理ツール、ビジネスチャットなどが挙げられる。
ERPと業務システムの違いについては、先述の基幹システムと同様に目的が異なるが、業務システムは万が一システムが停止しても、事業継続が困難になるほどの影響を受けない点も違いと考えられる。
ERPの種類
ERPシステムは、包括的に管理する業務範囲に応じて、種類が分けられる。さまざまな種類が存在するが、代表的なタイプに統合型とコンポーネント型の2つがあるので、特徴を解説していく。
統合型ERP
統合型ERPとは、企業の経営にかかわる多様な業務データを、1つに統合したタイプである。財務、会計、給与、顧客情報など、全ての機能がシステムにまとまっており、大手企業を中心に活用されている。
データベースを1つに統一することで、管理性が向上し、各システムからデータを更新することが可能になる。また、あらゆる業務データがリアルタイムで更新、共有されていくため、経営者は資源の全体像を把握しながら、戦略に生かせる。
ただし、システムの導入ハードルの高さは大きなデメリットになる。さまざまな分野のシステム統合は容易ではないため、高額なコストが発生する点や、要件定義、実装、テストなど本稼働までに多くの時間を要する点にも注意したい。
コンポーネント型ERP
コンポーネント型ERPとは、自社の必要業務だけを抜粋し、システムに統合できるタイプである。先述のタイプに比べ、統合範囲が狭いため、導入にかかるコストや時間を削減可能。中小規模の企業でも、導入しやすいタイプのERPとなっている。
ただし、統合した業務データしか共有できないため、全体のリソースを管理したい企業には不向きといえる。また、統合する業務データを後々増やす場合、システム改修の規模が大きくなるケースもあるため、慎重に統合範囲を決めなければならない点にも気を付けたい。
ERPの導入形態
ERPを利用する際は統合範囲も重要だが、導入形態も決める必要がある。ここでは、クラウド型とオンプレミス型の2つのERP導入形態について、解説していく。
クラウド型ERP
クラウド型ERPとは、文字どおりクラウド上にERPシステムを構築するタイプである。自社でサーバやネットワーク機器を調達する必要がないため、初期費用を抑えられるのが大きなメリットだ。システム導入時の負担が少なく、ITリテラシーの低い中小規模の企業にも、クラウド型ERPはお勧めといえる。
また、セキュリティ対策やバージョンアップといったメンテナンスは、サービスを提供する事業者が実施するのが基本。IT人材を確保する手間がないのはもちろん、機器やネットワークのメンテナンスにかかわっていた人員、時間を、他のコアビジネスに回すこともできる。
さらに、クラウド型ERPへは、インターネット環境さえあればアクセス可能。時間、場所を選ばずシステムを利用可能なため、テレワークなど柔軟なワークスタイルを取り入れる企業からも重宝されている。
ITRの調査によると、2019年度におけるERP市場は売上金額1128億円で、前年度比12.4%増という結果になった。今後も市場は伸長すると予測されており、その中でも急拡大を見込まれているのが、クラウド型ERP(SaaS)だ。ERPの各サービス提供事業者も、クラウド型ERPに注力していくと予測できる。
オンプレミス型ERP
オンプレミス型ERPとは、自社でサーバーやネットワーク設備を用意し、システムを構築するタイプである。昨今ではERPに限らず、システム全般的にクラウドサービスが普及しているが、従来はオンプレミス型が主流だった。
機器の調達からメンテナンスまで、自社で実施しなければならないオンプレミス型ERPだが、カスタマイズ性の高さが大きなメリットとして挙げられる。
クラウド型ERPは、カスタマイズの範囲が限定されており、特に不特定多数のユーザーで環境を共有するパブリッククラウドでは、カスタマイズを実施できない。
その点、オンプレミス型ERPは自社環境に構築するため、他のシステムと連携するなど拡張性に優れている。クラウド型ERPに比べると、需要は低下しつつあるが、現在も多くの企業で採用される導入形態だ。
ERPのメリット
自社がERPシステムを利用する必要性はあるのか、迷っている企業向けに、導入するメリットを解説していく。
業務を効率化、省力化できる
ERPで各部署のデータを連携しておけば、業務効率の向上を期待できる。例えば、販売管理、在庫管理、原価管理などを全て別システムで行っている場合、それぞれのシステムに同じ情報を都度入力、もしくはデータを移行しなければならない。しかし、二重、三重管理は業務効率が悪く、データ移行時にミスが起き、後戻り工数が発生する可能性も出てくる。
その点、ERPはデータベースを統一し、各部署の情報を連携可能。業務を効率化、省力化することで、質の高いサービスの提供やプロジェクトの円滑化、時間創出によるDXの推進などにもつなげられる。
リアルタイムで経営データを見える化できる
企業を取り巻く外部環境は、技術のイノベーション、あるいはデフレなどさまざまな要因により、目まぐるしいスピードで変化している。組織をリードしていく経営者は、外部環境の変化をいち早く察知し、臨機応変に経営戦略を立てる必要がある。
経営スピードを強化するためには、情報を可視化し、自社が置かれている状況を常に把握しておくことが極めて重要になる。その際、ERPを導入しておけば、業務データをリアルタイムかつ全社横断的に管理可能なため、都度情報を集約する必要はなく、経営者の意志決定スピードを速められる。変化の激しい市場においても、高い競争力を有する企業への成長も見込めるだろう。
ガバナンスを強化できる
ERPシステムは、健全な企業経営を目指すガバナンスの強化に対しても有効である。経営資源を集約し、平準化できるERPだが、アクセス権限をまとめて管理できる機能も備わっているのが特徴。
従来の部門ごとに分断されている基幹システムでは、異なる要件のセキュリティーポリシーを策定し、万全な事業体制を構築することが大きな負担となっていた。
しかし、ERPシステムでアクセス権限を設定すれば、従業員による不正行為や機密情報の流出を防止でき、経営リスクを未然に防ぐことが可能。また、ワークフローの承認ルート設定、ログ機能なども活用可能なため、企業の管理体制、内部統制強化につながるといえる。
パッケージの利用で開発コスト削減、安定稼働を実現できる
社内システムを内製する企業は多く、柔軟に仕様を変更できるメリットがあるが、自社開発でERPシステムを実装するには膨大なコストと工数が必要になる。しかし、先述の通り、ERP市場は着実に伸長しており、パッケージソフトを提供する事業者も増加してきた。多様な事業者からソフトウエアを選定でき、開発コスト・開発期間の削減を見込める。
また、パッケージ開発はゼロから構築するスクラッチ開発と異なり、さまざまな企業で同一仕様のソフトウエアが導入されているのもポイント。豊富な導入実績を有するパッケージソフトのため、安定稼働しやすく、システムトラブルのリスクを低減できるのもメリットだ。
ERPのデメリット
多様なメリットが存在するERPだが、当然デメリットもある。導入を検討している企業は、デメリットもチェックしてほしい。
導入、保守コストが必要
ERPシステムの導入にはもちろん、導入時の初期費用やサポートのランニングコストなどが発生する。会社の規模、ERPの種類、導入形態、システム要件といった要素に応じて費用は決まるが、場合によっては数千万円のコストが必要となるケースもある。
カスタマイズやアドオンを少なくし、システムの改変に係る費用を削減できるかなど、仕様だけでなくコスト面も自社に適しているかチェックしよう。
リプレイス時にデータ移行が発生する
新たにERPを導入する場合、システムのリプレイスが発生するが、同時に既存システムからのデータ移行も必要となる。ERPで取り扱うデータは、基幹システムに蓄積される重要なデータであるため、慎重に移行することが大切。
不整合なデータが発見された場合は、業務に影響を及ぼす可能性もある。自社、ベンダーいずれがデータ移行を行う場合においても、読み合わせなどを実施し、適切に移行されているかチェックしたい。
社員教育が必要
新システムの導入に伴い、社員教育も忘れてはならない業務の1つだ。社員向け説明会、マニュアルの整備、さらには業務フローの見直しといった工数についても、導入時は必ず考慮しておきたい。
特に、ERPシステムは業務データを全社で一元管理するため、アクセス可能範囲が大きく広がるケースも多い。外部からの攻撃に対し、強固なセキュリティを施したERPシステムを構築しても、社員から情報が漏洩するリスクを完全にゼロとするのは不可能。個人情報保護方針や情報セキュリティポリシーといった社内規定の重要性を、今一度社員に認識させる必要があるといえるだろう。
ERPのまとめ
ERPの市場規模が拡大していることからも分かるとおり、昨今ではさまざまな企業がERPシステムを導入し、業務の効率化や経営データの見える化などを実践している。業務データを統合的に管理することを、各企業が重要視し、優先度も高まっていると考えられる。
当然、ERPシステムを導入するハードルは低いとはいえないが、オンプレミス型からクラウド型へサービス形態も変化しており、中小規模の企業でも利用しやすくなった。情報活用を促進し、競争が激化する市場でも生き抜く企業へ成長させるため、この機会にERPの導入を検討してみてほしい。