小売業が目指すべきは「デジタルマーケティング業」 西友大久保恒夫社長
2024.11.21
2024.11.13
目次
異端の店舗担当が経営戦略担当に抜擢、そして業務改革の事務局に
総合量販店のナショナルチェーンだった西友は現在では本州での展開に特化したスーパーマーケット(SM)企業になっている。買収によってウォルマート流のディスカウントに向かっていた時期もあったが、昨今では株主変動によって、その要素は残しつつも独自の商品・販売政策の質販店を志向する。まさに激動の西友の社長を務めるのはイトーヨーカ堂出身、コンサルタントの経験も豊富な大久保恒夫氏。大久保氏が目指すとする「デジタルマーケティング業」の姿とは。
西友社長の大久保恒夫(おおくぼ・つねお)氏は、小売業の専門経営者といえる。イトーヨーカ堂出身で、その後、コンサルタントに転身、自身のコンサルタント会社を設立してもいるが、やはりその原点には、大学卒業後の1979年に入社したイトーヨーカ堂の店舗での経験がある。
「私はもともと理系だったのですが、大学は文系になってしまい(早稲田大学法学部)、それもあって卒業後は情報システム会社に行きたかった。それでいろいろ受けたのですが、大学時代に身を入れて勉強していなかったことが祟って入れませんでした。それで、まだ就職活動の門戸を開いている会社を探した際にイトーヨーカ堂があり、受けてみたところ受かったのが小売業との出会いでした。
そのような始まりでしたが、イトーヨーカ堂の店舗で働いてみたら『こんなにおもしろい仕事はない』と思いました。ダイニング家庭用品を担当していたのですが、ものすごい売上を上げたのです。売り込んで、売れると楽しく、この仕事にのめりこんでいきました。
そのうちに売場チーフになって、予算比200%に挑戦しました。200%には届かなかったのですが、150%は当たり前、最高で180%まで行きました。周りはみんな、『信じられない』という感じでした」
いまから振り返ると、「時代が良かったのではないか」とも考える向きもあるかもしれないが、それでもかなり目立つ存在であったのだろう。しかも、売場担当ということで裁量も限られている中にあって、独自の動きもしていた。まさに小売業に足を踏み入れた当初から商才を発揮していたということになる。
「店舗の担当者にもかかわらず取引先にまで行って、自分で商品を仕入れて、伝票にサインしたらバイヤーからすごく怒られました。当時、茅ヶ崎店(神奈川県茅ケ崎市)にいたのですが、ダイクマ(ディスカウント店、後にイトーヨーカ堂のグループ会社を経て現ヤマダデンキに売却、その後、合併)が目の前にあった。ディスカウントで3足1000円のスリッパが、山のように売れているのを見て、『うちも』と思いました。
茅ヶ崎店の家庭用品売場は小型店パターンで、スリッパ売場は3尺1本(約91cm幅の棚)しかなかった。『これでは売れないな』と思って、平台を10台くらいかき集めて、店頭で、平台で山積みして売り込もうと思いました。取引先に行って、高品質だけど3足1000円のスリッパを勝手に(仕入れて)サインした。
後日、検品(担当)から電話がかかってきて『大久保さん、1台全部スリッパのトラックが来たけど、どうしたの』と。『バックルームは(置き場所)ないだろ』と言われたので、『いいですよ、そこらへんに置いてください』。さらに『雨が降ったらどうする』と言われたので、『雨、降ったら考えます』と(笑い)。結果、行列ができるくらいめちゃくちゃ売れました」
当時の話を聞くとかなり異端の店舗担当者だったことになる。それでもときには越権行為を咎められながらも、大きな売上げを作り、また、バイヤーなどともコミュニケーションをしながら着実に実績を上げていった。
「売上をめちゃくちゃ上げていたので、いつも表彰されていました」
こうした姿が本部の目にもとまったのだろう。新設されたグループの経営戦略を担当する部署のメンバーに抜擢されることになる。
「当時、入社2年目で『若すぎる』『グループの経営戦略なんてできるわけがないだろう』と言われましたが、本を読んでものすごく勉強をしていため、面接担当がびっくりしたようでした。それで面接担当が当時の伊藤(雅俊)社長に掛け合ったところ、伊藤社長は『若い者にやらせてみろ』と言ったらしいです」
その後、81年度の中間決算で創業以来、初めて経常減益を喫したことに端を発する鈴木(敏文)さんがリーダーで進めた「業務改革(業革)」にも参画することになる。
「業革では事務局をやっていました。それで『経営改革はこうやってやるのだな』みたいなことが分かった。商品開発の強化、単品管理、売れ筋拡大、死に筋削減、商品の絞り込みなど全部やりました。これらの原理原則的な考え方は全部、鈴木さんから学んだものです。
一方で、伊藤さんからはお客さまと現場の重要性を学びました。伊藤さんからはいつも、『お前、何でこんなところに座っているんだ。お客さまが来る現場に行ってこい。現場は苦しんでいる。全然、違うことが起こっている。』と言われていました」
イトーヨーカ堂での重要な任務を担う日々だったが、入社から10年を経た89年に転職、その後、独立の道を歩むことになる。
「私は社長になりたかったのです。10年経って会社を作ろうと思った。周りからは『こんなに認められているのにお前は頭がおかしい』『どうして辞めるのか』『何かあったのか』と言われました。
ただ、いきなり独立ではなく、まずはコンサルタントになろうと思い、コンサルティング会社(プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント、現PwCコンサルティング合同会社)に入りました。流通経済研究所(研究員)からもぜひ来てくれと言われて、ISM(インストアマーチャンダイジング)の研究とメーカーの営業改革のコンサルティングをしていました。
コンサルタントを始めたら、評判が良く、それで自分で会社、リテイルサイエンスを設立することにしました」
リテイルサイエンスでは伊藤忠商事にいた澤田貴司氏(ファーストリテイリング副社長、ファミリーマート社長などを歴任)の紹介で業績が悪化していたファーストリテイリングのコンサルティングをしたり、ブームが去って改革を必要としていた良品計画の改革に取り組んだりした。
その後、投資ファンドから乞われる形でドラッグイレブン、成城石井の社長を歴任し、ドラッグイレブンでは赤字から利益体質への転換、成城石井では営業利益率の大幅改善という成果を出した。
「利益が出ていないということは経営としての根本的な問題があると思うんですよ。利益が出ないと従業員にも十分に還元できないし、社会にも還元できない。しっかり利益を上げる小売業を作って、小売業の社会的な評価を高めていきたいというのが、私がライフワークとして目指していることです。
利益拡大策をコンサルタントとして言うと『そんなこと、できるわけがない』と言われるので、やはり社長になってそれを実現していくことが重要だと思いました」
成城石井社長を退任後は、古巣から呼び戻されて、セブン&アイ・ホールディングス取締役、セブン&アイ・フードシステムズ(主力はデニーズ)社長などを務め、その後、再びコンサルタントとして活動していたが、21年3月、資本構成が大きく変わるタイミングで西友の社長に就任することになる。
西友はかつてセゾングループの一員として、百貨店も経営するなど総合小売業としてナショナルチェーンを築いていたが、経営悪化に伴って次第に食品小売業の性格を強めると共に株主も移り変わっていくことになる。
2000年代にかけて世界最大の企業でもある米国ウォルマートが段階的に買収を進め完全子会社化。ウォルマート・ジャパンの代表的企業として、いろいろ苦労しながら構造改革を進め、ディスカウント企業への道を歩んでいった。
状況が大きく変わったのが、大久保氏が社長に就任した21年。新たな株主として投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と楽天グループの楽天DXソリューションが加わり、ウォルマートの持ち株比率は15%にまで低下、新たな経営体制の下、再スタートを切った。
「私が社長になって最初に出した経営改革の方針があるのですが、それはいまでも一切変えていない。いまも順調なので、変える必要もないと思っています。経営改革というのは、価値を創造する小売業にして、営業利益をしっかり出して、それを前向きな投資に回して大きく成長していくというものです」
「商品力」と「販売力」の2本柱を徹底的に強化する
大久保社長は、小売業について語るとき、価値創造のためには「商品力」と「販売力」が2本柱で、柱をしっかり立てるために情報システムと教育を基盤とし、これらを徹底的に強化することの重要性を語る。
これは同氏が昔から一貫して主張していることで、これまでもこれに基づいて企業を再生してきたし、西友においてもその姿勢は全く変わっていない。商品力を強化することで値入率を高め、販売力を強化することでしっかり粗利率を確保する。結果として営業利益率も高まるというストーリーである。
20年初頭から始まった新型コロナウイルスのパンデミックは、結果として必需品業態であるSMの業績を押し上げた。さらにそれに続く、インフレ基調とそれに基づく値上げもSMの業績、特にトップラインの売上を押し上げてきた。
一方で、売上も上がるものの、そのための原価、および経費も押し上げられている。節約志向の高まりなども指摘される昨今、価格対応も求められる中で利益の確保が難しくなっていることもある。
「一番重視している営業利益は順調です」
インフレ、物流問題、さらに人手不足が原価、経費を押し上げていることに対してはどうか。
「コントロールがうまくできていると思います。『商品力強化』を目指す中で、粗利も率も上がっています。さらに『販売力強化』で、ロス率が下がり、生産性も上がっています。結果、営業利益率は順調です」
「西友は『質販店』の方向に明確に方針を変えています。原価が上がっても、それにふさわしい価値を出し、それにふさわしい値段にすることができれば、そんなに大きな問題ではないと考えています」
売上や利益など具体的な数値は非公表だが、今年は北海道についてはイオン北海道に、九州についてはイズミに店舗事業を譲渡するなど店舗網の大きな変動があったこともあるのだろう。いずれにしても本州に経営資源、出店エリアを集中し、経営効率も上がっているようだ。大久保社長が日々モニタリングしている数値について聞いてみた。
「売上は当然ですが、私は売上だけ見ているわけではありません。売上と粗利、これらを両方、いつも見ています。
加えて生産性をすごく重視しています。多分、西友はどこの食品スーパーよりも生産性のデータを出して、それを見ながら経営をしていると思います。中でも私が一番重視しているのは『UPLH(Unit Per Labor Hour)』という、『労働時間当たりの販売数量』です。作業の効率ということで、『数量』になります。
1万円のものを並べるのも、100円のものを並べるのも同じ作業です。作業効率を上げるというのはUPLHを上げるということなんですよ。労働時間を私はすごく気にしています。何時間使っているのか。それに対して何個売っているのか。例えば、インフレの時代になって単価が上がっています。それで売上げがそれよりも上がっていない場合が多いですが、つまり、それは数量が落ちているということになります。
数量が落ちているということは、作業が減っているということです。減っているのに労働時間を減らしてない小売業がすごく多い。作業が減っていたら労働時間を減らすべきですが、それをやっていない。西友はそれをしっかりやっています。数量が減っているのに人時数を減らさないと『楽になって、よかった。ゆっくりできるね』みたいな感じになって生産性が上がらない。
レジでもそうです。フルセルフのレジはすごく効率が上がるのですが、人を減らさないから『楽になってよかったね』となってしまう。いま、チラシの回数を減らしアイテム数の効率化を進めており、またプロモーションでもいろんな余分な作業を減らしていくことを進めていますが、それらによって作業減の分どのくらい人時数を減らせるのかということを合わせて考えないといけない」
定性的な面はどうか。
「これは昔から私が重要視している点ですが、基本の徹底の部分で、西友ではレシートのところに出ている案内から取得するお客さまからの評価をすごくよく見ています。あいさつはどうなのか、売場の綺麗さはどうなのか、鮮度はどうなのか、品切れはどうなのか。こうした基本の徹底のところは、私は小売業において非常に重要な部分だと思っていますので、とても重視しています」
ネットスーパーは店舗出荷型でないと利益を出すのに時間がかかり「難しい」
西友は2000年に、日本では大手スーパーとして最も早くネットスーパー事業を開始した企業でもある。各社がその重要性を認識しつつも、確実に利益が出るビジネスモデルの確立に苦慮しているが、西友ではさまざまな経緯を経て、現在では確実に利益が出るようになっているという。
もともと手がけていたものは店舗から出荷する方式だが、もう1つのチャネルとしてウォルマート子会社時代の18年4月に共同出資で楽天西友ネットスーパーを設立し、倉庫から出荷する倉庫型のネットスーパーも手がけてきた。この倉庫型のネットスーパーについて23年12月、西友として撤退することを決めた。
「楽天と合弁でやっていた倉庫型のネットスーパーの提携を解消しました。いままで倉庫型と店舗型で対象地域割りをしていたので、それも今後整備していきます。移行期間終了後は、それぞれ独自に展開していくことになります」
倉庫型から撤退する一方で、従来から手がける店舗出荷型には大きな可能性を感じている。
「私は、ネットスーパーは非常に有望だと思っています。ネット化社会の進化により会員数が増え売上を拡大することができるからです。ただ、長期的な視点で大きな投資が可能なEC事業者と比べて、利益率が低いSM事業者は、店舗出荷型で投資を少なくし短期的な視点で利益を出していくことが重要だと私は思っています。そのため、西友は店舗出荷型に特化することにしました。
また、店舗出荷型で利益を出すことは可能です。店舗の従業員によるピッキング効率を上げて、店舗の近くを対象にして配送効率を上げる。店舗出荷型のネットスーパーは、これから店舗の売上を維持するためには絶対に重要だと私は思います」
ただ、店舗型とはいえ、ピッキングと配送について、店舗で販売するのと比べて、より経費がかかっていることは間違いない。その点についてはどうか。
「私はネットスーパーというのはコンビニよりもコンビニ(便利)だと思っています。コンビニは便利だから高い。(商品を配送するネットスーパーは)それよりも便利だったら、もうちょっと高くてもいいのでは」
つまり、配送してもらうという利便性を考えれば、飲食の宅配ビジネスと同様、店舗より価格が高くても利用価値があるという考えだ。だから店舗と同じ価格、あるいは同じ特売を実施することは合理的ではないということになる。
「ネットスーパーは、リアル店舗とはニーズ、業態が異なるということを起点に事業設計をすることで、人口減少や高齢化が進む中で、リアル店舗と併存してお客様に利便性という価値を提供できます」
一方で、出店についてはどうか。かつては300店を超えるナショナルチェーンだったが、前向きな投資に向けた(不動産を)持たない経営の実践や、老朽化した不採算店の閉鎖や再開発、北海道、九州の店舗事業譲渡によって現状の店舗数は243店(24年10月1日現在)になっている。先日、25年4月開業予定の「ららぽーと安城」に新規出店することが発表された。
「今後、出店は継続していきます。何店を目標とするといったことはないですが、新店を出しませんということではなく、新店を着実に出していこうという方針です。商品力、情報システムの強化には規模が課題になります。規模の拡大は、M&A(合併・買収)や提携を考えています。
ネットの時代なので。リアルの店舗は今後、下手をすると負の遺産になる。人口が減っていく中で、リアルの店舗の売上は落ちていくものと想定しています。私はそれを前提に、『売上を追わなくても、売上が上がらなくても利益が出る』食品スーパーを目指しています。『価値を創造する』ことをやってきて、それができてきているということです。
リアルの店舗の売上を維持する、あるいは上げるとしたら、相当ディスカウントをしなければいけないわけですが、一方で原価が上がってくる中で利益を出すのは極めて難しい時代になります。人口が減ってきて、さらに高齢化して胃袋が小さくなる中で売上がどんどん落ちる時代になっています」
一方で、企業によっては広域をターゲットにするディスカウント店を出店し、大きな売上を上げている店もある。
「私は今後、商圏が小さくなると思っています。大商圏型でディスカウントをして、遠くからお客さんを引っ張るのはますます苦しい時代になると想定しているため、西友は小商圏型で価値を作っていく方向です。その中で、売上が上がらなくても利益が上がるという店を目指すという経営改革を進めているということです。
小商圏型で、店舗とネットのOMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)で、どうやったら売上、利益が出るのかを考えながらやっています。
かつ、ネットの重要性がどんどん上がっていく中で、西友はネットでも利益が出ているため、ネットの構成比が上がっても利益をちゃんと維持できます。高密度、小商圏型になって、リアル店舗で売上が上がらなくても利益が出るということが、達成できています。価値を創造していますから。
私は将来の姿をかなり意識しながら食品スーパーを経営しています。10年後、20年後、専業主婦世帯が多く素材を買って家で調理をしていた団塊の世代の人たちがだんだん少なくなる中で、どのように事業運営するかがすごく大きな課題だと思っていて、西友はいまからそれに対応を始めているわけです。それでも利益が出るためにはどうすべきかを考えている。
日本の国内で食品が売れる数量というのは減っていく。それでディスカウント合戦して単価を下げたら、マーケットが小さくなるだけです。しかしながら、『おいしいものを食べたい』というニーズは必ずあるので、やはり品質を上げて、価値に見合う単価にしていく。さらにオリジナル化を進めていく。こうしない限り、生き残れないと思って私は経営改革をしています。
ニーズに合わせた売場、店、商品にしていかなければいけないという大きな環境変化を見るべきだと思います。だんだん家で調理する人は減ってくる。家で天ぷらを揚げるということも減ってきています。揚げ物も焼き物も減っていて、(電子レンジで)チンする簡便性へのニーズが高まってきている。
例えば、小商圏化するので店は小さくした方がいいでしょう、惣菜類は拡大でしょう、冷凍類も拡大しようなど。そういう方向になるのではないかと思っています」
小売業は「デジタルマーケティング業」になるべき
リアル店舗とネットスーパーを小商圏できめ細かく展開するには、やはりデータが肝になる。西友は昨年、従前のウォルマート流の情報システムを自前のシステムに全て置き換える非常に困難な刷新作業を遂行した。
「情報システムは結構、落ち着きました。やりたいことができるようになってきましたね。ただ、やっとスタート台に立ったという感じで、ゴールだとは全く思っていません。これからデータを活用することで、より価値創造につなげていきます。
大きな方向性の話をすると、私は、小売業は『販売業』から脱却しなければいけないと思っています。メーカーが物を作って、卸が物流をして、小売りは店を作って商品を並べて、それをオペレーションする。これが『販売業』の位置づけですが、これまでは、これで何とかなった。しかし、利益が出ていない。
だから、そこから脱却しなければいけない。どういう風に脱却するかというと、私は『マーケティング業』になるべきだと思います。小売業が一番、お客さまのニーズがよく分かる。変化が早く分かる。
だからそれに合わせて、いわゆるマーケティングの4P、商品(Product)、価格(Price)、売場(Place)、プロモーション(Promotion)をお客さまのニーズに合わせて適正化していく。それが小売業であるという方向でビジネスモデルを変えていかなければいけないと思っています。
なおかつ、いまはデータを活用してそのマーケティングを適正に行うことを目指している。それを『デジタルマーケティング業』と言っています。
西友はデジタルマーケティング業を目指しています。商品力強化も、販売力強化も、 デジタルマーケティングで精度を上げていく。データによって効率的に行うことができるようになれば、利益が上がって成長できる食品スーパーになれるでしょう。これを目指している」
デジタルマーケティングのためのツールの1つがアプリとなるが、これも当初は楽天と西友の双方を冠していた。しかし、これについてもネットスーパーでの協業を解消するタイミングと期を一にして9月、西友単独のアプリとしてリニューアルした。
また、倉庫型ネットスーパーからの撤退に先立つ、23年5月には楽天グループが子会社を通じて保有する20%分の株式をKKRに売却し、楽天グループとの資本関係がなくなっている。一方で、22年に全面導入した楽天ポイントプログラム、楽天エコ(経済圏)を活用したデジタルマーケティング業化を進めるため、楽天グループとの協業は継続する。
「9月に西友の独自のアプリがやっと動き出しました。これからアプリの活用を進めていきます。個々のお客さまのニーズが分かるので、個々のお客さまに合わせて売り込みを行うとか、どの商品をいくらで、どうやって説明をして売り込んでいくかといったことの精度が上がるようになります。
いままではプロモーションというと、不特定多数に対する価格を下げるプロモーションだった。今後はワントゥワンのプロモーションで利益を上げていくべきで、特定個人に対するプロモーションをやるにはアプリしかないんですよね。だからアプリの比率をどんどん上げていく。アプリが重要です。
さらにこのデータは、メーカーも欲しいものになります。例えば、売場でプロモーションして、お客さまがブランドをスイッチしたとしましょう。彼らもそういうデータが欲しいわけです。いわゆる『リテールメディア』的なことにもつながっていきます。こういった施策のトライアルをダイナミックにできるようになる。
当然、プライバシーやセキュリティを維持しつつ、個人の購買履歴データがビジネスとなる、いわゆるリテールメディアといわれるものについて、すでに何社かの事例があります。 成果も結構、出ています。
それが小売業の新しい収入源になります。むしろ、小売業はこうしたことをやっていかないといけない。メーカーのプロモーションやマーケティングと一体となりながら、利益を上げることをやっていくべきだと思っています。
小売業の打ち手によってお客さまが何を買うかが変わる可能性があるわけです。小売業には商品を並べている「現場」がある。そこでデータが取れる。この強みを小売業は生かさないといけない。これは資産であり、マネタイズによって利益が出るわけです。
物を仕入れて売って利益を出すことは重要ですが、もうそこではあまり利益は出ない。だから違うところで利益を出す。先ほど言ったように販売業から脱却しなければいけない。デジタルマーケティング業になるべきだというのはこういうことです。
時代の変化に対応する。お客さまのニーズに細かく対応する。データも活用する。小売業は楽しい仕事、やりがいのある仕事です。まだまだ伸びしろがたくさんあると思うので、ぜひ、皆さんと力を合わせてそれをしっかり実行していきたい」
この「皆さん」とは、現在、小売業で働いている人たちであり、これから参画してくる人たちであり、同業他社でもある。大久保社長が45年前にイトーヨーカ堂の売場に立ったとき感じた「おもしろさ」とはまた違う、現代の小売業の「おもしろさ」。西友の社長を務めながら、いまだ実現しきれていないその姿を追求する日々は続く。